うちの嫁さんは世界一可愛い、異論はあろうが知らねぇよ。

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
49 / 93
2010…母親学級バトル

49

しおりを挟む
 あれから涼香と大輝のゆるやかな友情が始まった。色々と話してみると同じ年ということもあって共通点が多い。

「え、涼香ちゃんこのバンド知ってんの?」

「えぇ? 基本じゃない? このバンド通らずしてどこ通るってぐらい」

 二人は例の居酒屋に来ていた。
 もちろん二人の間のど真ん中にイカの一夜干しが置かれている。

 二人は携帯電話の画面を見ながら昔流行った映像を見ていた。こうして話しているとすっかり緊張も解けてきた。それは大輝も同じのようで洋介に話すような口調で涼香に話しかけてくれるようになった。

 涼香はそれが嬉しかった。
 大輝に惹かれているということではない。そうではないけれど、一緒にいると癒されるような感覚があった。

 目の前で少しネクタイを緩める大輝と目が合うと涼香は微笑んだ。

「……弘子がね、私たちが似ているって思って引き合わせたらしいの、過去の恋を引きずってるって……大輝くんも、そうなの?」

 今まで気になっていたけど聞けなかった。大輝の顔が少し悲しそうだった。

「あぁ……そうだよ。確かに引きずってる──」

 そう言う大輝の顔は本当に辛そうだった。本当にその彼女のことを思っていたのだと感じた。

「涼香ちゃんもそう?」

「ん……そうね……。二年前に別れた人をね、バカみたいでしょ? 思っても、帰ってこないのに」

「……バカじゃない。愛していたら、当然だ」

 大輝の口から出た愛という言葉に思わず顔を上げる。大輝は机に向かって目を伏せたまま何かを考えているようだ。声をかけたいのに、かけてはいけないような気がした。

「はい! おまたせしました! 鳥の唐揚げになります」

 大輝の視線を切るように机の上に揚げたての唐揚げが置かれた。大輝はそれに気づくとふっと笑い、取り皿を手前に寄せ、取り分ける。

「食べよっか」

「そうだね」

 二人は唐揚げを頬張り携帯電話を見て流行った流行語の一覧を見ていく。

「見て、これもう死語だよな」

「うそ、どうしよう。今も使ってるかも……」

 涼香の言葉に大輝が笑いをこらえている。大輝の肩をパシンと叩くと思いのほかいい音が響いた。
 二人ともまだ違う人を想っている。だから安心して一緒に居られる。他人からしてみれば、次に行け、諦めれば、若い時は一瞬なんだから……と言われてしまう。

 でも大輝といるとこのままでもいいんだと言われたようで心が落ち着いた。

 過去の恋なのだと、自分だって理解はしている。だけど、心をどうやっても変えられない場合は……どうしたらいいのだろう。

 同じ苗字や名前の人と出会った時。

 同じ香水を使っている人とすれ違った時。

 過去に行った思い出の地に足を踏み入れた時。

 部屋にある捨て切ったはずの彼の物も見つけてしまった時。

 夢で彼の甘い声を聞いてしまった時──。

 愛している気持ちが深かった分、それが消えた時の空洞は空いたままになったのかも知れない。
 それが、いつ埋まるのか──私たちは知らない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

処理中です...