47 / 94
2010…母親学級バトル
47
しおりを挟むさて週が変わって母親学級当日。
妊婦健診を終えた美晴とかーくんと共に2階の指導室なる部屋へと上がる。
今日集まるのは出産予定日の近いママさんたちと付き添い人だけ、初産でなければ強制もされないらしいが入院設備の説明等もあるので参加した方が後々の心配も少ないようだ。
「こんにちはー。浩史くん、ここに座ろ」
「うん…俺たちは席は無くて良いよな?かーくん、ここで遊んでようか」
室内にはホワイトボードを頂点にコの字に並べられた長机が3台、それぞれパイプ椅子が2脚ずつ置かれていた。
後方の角にふかふかのマットが敷かれたキッズコーナーが設置されていたので、そこにかーくんを誘導して靴を脱がせる。
12畳ほどあるこの部屋はこうした会合や研修などに使われているそうだ。
「(前に来た時と変わってねぇな…助産師さんも見た顔……お、あれか)」
かーくんを膝に乗せて置いてあったギミック絵本を開いていると、入り口からいかにも「成金です」みたいな妊婦が歩いて来る。
濃いめの化粧にしっかり巻いた髪をアップにして、ロングのマタニティワンピースの裾を靡かせてわざわざ美晴の隣の席へと鞄を置いた。
「久しぶりね、貴女相変わらず地味な格好ねー」
「こんにちは」
出会い頭のジャブに美晴は挨拶だけ返し、配られた冊子にまた目線を戻す。
「ねぇ、今日もすっぴんなの?そんなに素顔に自信があるの?」
「健診があったから薄化粧なんですよ」
「でもせめて髪くらいきちんとしたらぁ?サロンとか行かせて貰えないのかしら、旦那さんの裁量が疑われるわよぉ?」
「エコーで横になったら髪が崩れちゃうので。シャンプーでなんとかなってるので大丈夫です」
美晴にしては素っ気なくて毅然とした対応だ。
これははっきり相手から悪意を感じ取ったから出来ることだ。
感じないままだとふわふわ相手のペースに呑まれて情報だけ引き出されてマウント材料にされるのだ。
今日の美晴は自分から闘う意志を示せている。
相手さんもそんなことを感じ取ったのだろう、「つまらない」とばかりに資料を開いてペラペラめくり始めた。
「んま」
「…ママのとこに行くか?」
かーくんが早くも絵本に飽きて美晴の方へ向かおうとする。
靴はまぁ良いかと先に歩かせて俺も腰を上げる。
「あら、かーくん。遊び飽きちゃった?もう少しで始まるから良い子にしてようね」
「すまん、出てジュースでも買おうか」
「持って来てるよ、マグ」
「ありがと」
俺たちのやり取りを例のママさんはチラッと見て、
「……旦那さん?はじめまして…湯本です」
とおずおず話し掛けて来た。
「どうも、津久井です」
「……」
あからさまな批判は出てこない。
どうやら配偶者にまでマウントをとるほど強者ではないようだ。
しかし軽く鼻で笑われたような気がせんでもない。
可もなく不可もなくといったところか。
「ねぇ、素朴で飾り気のない旦那さまね」
「そうなんです、私にはもったいない旦那さまなんです♡」
「……」
おい美晴、褒められてないしだとしてもそこは謙遜するとこだぞ…呆気に取られる湯本さんの口の端がヒクと引きつる。
看護師さんが「旦那さんもどうぞ」と美晴の隣にパイプ椅子を用意してくれたのでそこに座る。
膝の上のかーくんは持参したマグのりんごジュースを美味そうに吸っていた。
まだ会が始まりそうにない、静かな室内でかーくんの声とあやす俺たちの声だけが目立つ。
予定ではもっと美晴を虐めるつもりだったのか、湯本さんは見た目に分かるくらいにイライラを滲ませて長机をコツコツと指で叩き始めた。
これはかーくんが真似してしまうな、少し椅子ごと後ろに下がってゆらゆら揺れれば、まったり気分の彼の瞼はとろんと降りてくる。
寝てくれた方が楽で良いか、そのまま揺らしていると思惑通りかーくんは寝息を立て始め、同時に助産師さんが入室し会が始まった。
今回はうちと湯本さんの2組だけみたいだ。
まぁ平日だし予定日で括っているからこんなものか。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
異常性癖者たちー三人で交わる愛のカタチー
フジトサクラ
恋愛
「あぁぁッ…しゃちょ、おねがっ、まって…」
特注サイズの大きなベッドに四つん這いになった女は、息も絶え絶えに後ろを振り返り、目に涙を浮かべて懇願する。
「ほら、自分ばかり感じていないで、ちゃんと松本のことも気持ちよくしなさい」
凛の泣き顔に己の昂りを感じながらも、律動を少し緩め、凛が先程からしがみついている男への奉仕を命じる。
ーーーーーーーーーーーーーーー
バイセクシャルの東條を慕い身をも捧げる松本と凛だが、次第に惹かれあっていく二人。
異常な三角関係だと自覚しつつも、三人で交わる快楽から誰も抜け出すことはできない。
複雑な想いを抱えながらも、それぞれの愛のカタチを築いていく…
ーーーーーーーーーーーーーーー
強引で俺様気質の東條立城(38歳)
紳士で優しい松本隼輝(35歳)
天真爛漫で甘えんぼな堂坂凛(27歳)
ドSなオトナの男2人にひたすら愛されるエロキュン要素多めです♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる