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2016…評判の饅頭

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 結婚してから8年目。

浩史こうしくん、あの、私もそろそろ働いて良いかな?」

上の子が7歳になろうかというタイミングで妻・美晴みはる(28歳)は夫である俺・津久井つくい浩史(37歳)にそんなお願いをしてきた。


 卒園式が済んで次は入学式とバタバタしている時期に思わぬ提案、俺は夕食のカレーをもぐもぐしつつ「んー」とだけ返す。

「もう2人ともしっかりしてるし、その、私も家計の助けになりたいなって」

「何系で働くつもり?」

 美晴は元々は接客業だったが夜の店だった。

 話し相手としては及第点だが、回転率や客の顔色を窺わねばならないのは苦手だということで辞めて以降は避けていた。

 同棲後に実家の近所のネジ工場でしばらく働いたがそこはもう廃業してしまったし、なるべく近場が好ましいのだが都合良くあるものだろうか。

「えっと…接客系…?それなら頑張れば出来るかなって…ほら、私、馬鹿だから書類扱いとかは出来な」

「美晴、それは言うなって言ってるだろ」

「…ごめんなさい」

 卑屈な口癖はやめろといつも言っているが未だ抜けず。

 美晴はしょぼんと新聞紙を折り畳んで袋状にしていく。

 これを燃えるゴミの袋の底に敷いておけば中身が見えないし、小さなゴミ箱ならそれだけ回収して手早く空に出来る上にゴミ袋の節約になるのだ。

 これは心掛けの問題であって俺が強制させている訳ではなく、うちはゴミ袋を買えないほどに困窮している訳でもない。


「…接客だって簡単な仕事じゃないぞ……無理に働かなくても良いんじゃねぇの?」

「んー…でも、私も役に立ちたいっていうか…社会の一員として…」

「誰かに、何か言われたの?」

 ギロっと睨めば美晴はびくんと揺れて、しおしおと

「今日新年度のPTAの役員決めしたんだけど、当たったママ友がね、『役員は働いてない人がやれば良いじゃない、忙しい私と違って暇があるんだし』って場が荒れちゃって…そうなのかなって」

と唇を噛む。


 まったく余計なことを吹き込みやがって。

 俺は嫁お手製のカレーを一気に平らげてスプーンを皿へと置いた。

「…美晴、それは負け惜しみとマウンティングってやつだ。気にすることはない」

「そうなのかな」

「働いてりゃ主婦が妬ましいし無職なら働いてる奴が妬ましいもんよ…どっちにしても他所よそさんのことに口挟むのはみっともねぇことよ、んなもん友達じゃねぇぞ」

「まぁね、子供の同級生のママさんだから便宜上ママ友と呼んでるだけで…確かに親交は無い」

「それぞれ都合があんだから…他の仲良くしてるママさんもそんな感じなのか?」

「ううん、リクくんママも働いてるけど気さくで良い人だよ、忙しそうだけど鼻にかけたりしない。リョウくんママも、夜勤明けでもいつも爽やかに挨拶くれる。サナちゃんママは一緒に役員したときに子育てサークルに誘ってくれて…色々相談できる仲になってるし…これは本当の友達に近いかも、」

「だろ、忙しさはまぁ差があるだろうけどよ、俺たちが頼んでその人に働いて貰ってる訳じゃねぇしな、個人の都合で働いてんだから…余計なお世話よ。それに固定メンバーだけで役員回してっと独裁になっちまうしな」

「うん……役員決めはとりあえず治まったんだ。その人は周りからヒソヒソ言われて孤立しそうな感じ…嫌な会だった。それで、それは関係無くてもね、何か…何か役に立つことしたいの」


 確かに息子2人が小学校に上がれば美晴は日中独りで家に居なければならないのか。

 寂しいというか手持ち無沙汰というか、家事をしても時間は有り余るだろう。

 何かハリというかすべき事を見つけてすれば良いのだろうがそれが毎日だといずれネタは尽きる。

 やる事が無くなれば襲ってくるのは虚無感と孤独感…社会から分断されたかのような孤立した気分に陥ってしまうかもしれない。
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