上 下
49 / 73
Capitolo10…Insegnante

49

しおりを挟む

「うん…お姉さまを見ても、前みたいにドキドキしなくなっちゃった。受験前くらいから…性欲自体があんまり、うん…枯れたのかも」

「じゃあ私にも?」

「…シラトリさんは相変わらずキレイだし…恋愛対象だよ、でもそれ言うと避けられちゃうでしょ、僕は報われない恋に徒労するの嫌なんだ」

「まだ若いのに」

「その若い僕をもてあそんだでしょ、4年も何もさせてくれなかった」


 枯れたのも本当だ。

 勃たない訳じゃないけどナンパに出たり時間と労力を費やすのが億劫おっくうになった。

 でもたまにシラトリさんに呼ばれてモデルをして、裸を見せたりスーツで隣に並んだりするのが楽しくて満ち足りてたから『恋愛』というものをしばし忘れたんだ。

 下心を出そうと思えばいつでも出せたさ。

 でも割り切った大人な関係も居心地が良かったから背伸びして澄ましてたんだ。

 いつお払い箱になっても「そう、じゃあサヨナラ」と去れるように、シラトリさんのあの冷たい眼差しは二度と向けられたくなかったし。

「たった4年じゃない」

「あのね、22歳の僕の4年と47歳のシラトリさんの4年を同列に語らないでよ…こうやってまだ気を持たせようとするんだ、本当悪い女」

「ごめんごめん、ふふ…春から…仕事のパートナーとしてきちんとやっていける?」

「やるよ、そこはちゃんとする。僕、なんだかんだシラトリさんの作品好きだから…上手くやっていきたいよ。僕がシラトリさんの名刺になる、僕のビジュアルが役に立つなら協力する」


 あわよくば、なんてもう考えない。

 この人を上司として作家として尊敬し仕えていくんだ。

 渇いたため息を吐けば彼女は納得したように笑って、種々の書類の入った紙袋をどすんと足元へ置く。

「うん、よろしくね。…さて…これ、会社の資料と契約先のリストよ。把握しておいてね、税理士さんとの打ち合わせが最初の仕事になるかしら…また連絡するわ」

「はいはい…」

「それから、」

「はい?」

紙袋の紐を揃えて掴み、春休みを謳歌どころかしばらくはインドア生活だなぁなんてげんなりしている僕の顔にサッと影がかかる。


 不思議に思い顔を上げたら柔らかい手にあごを引き寄せられ…

「卒業おめでとう、レオくん」

と気品のある口紅の香りとぷるぷるの感触が頬辺りにちょんと触れた。

 口紅どころか化粧品全体の香りが同級生のそれとは違う。

 上質な香水が含まれているような懐かしさを感じるような、落ち着きと興奮が同時に差し迫る思いがした。


「な、な…」

「挨拶よ、あなたならこれくらいするでしょう?」

「しないよ、知ってるじゃん、日本式しか、ちょっと、どういうつもり」

 期待させて結局手は出させないくせにこうして僕を縛るんだ。

 だくだくと全身の血が巡ってぽっぽと首から頬から熱くなる。

「だから挨拶、それにお祝いよ。じゃ、降りましょ」

しゃっきりしたシラトリさんは荷物を持って先に廊下へと出た。


「……うわ」

 きっと今僕は白い肌が真っ赤に染まっていることだろう。

「…なんだよ、なんだよっ…なんですんなり諦めさせてくれない…もー、悪い大人だな!」

慌てて駆け出て、エレベーターを待つ彼女の荷物を奪い取ってやった。

「あら」

「…重たいものは僕が持つから…

「……ありがとう、ラッセルくん」


 絶対に僕から手を出してなんかやるもんか、彼女の方から懇願するまでキスだってしてやるもんか。

 やろうと思えばいつだってできるんだ、でもここまでおちょくられてほどこしで与えられたって喜べるもんか。

 この感情を敬意に替えて誠心誠意勤め上げてやる。

 そして後悔するがいいさ、「あの時抱かれてれば良かったわ」ってね。


「…ふふ」

「どうしたの?」

「いいえ?僕、頑張りますから」

「そう、よろしくね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...