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しおりを挟む「なぁ、阿久津ってさ、フェラチオめちゃ上手いらしいぜ」
帰り支度をしたクラスメイトの田邑が、俺にそんなことを言う。
まるで覚えたての単語を使いたがるガキみたいだ、いや正にそうなのか。
男子校の放課後、降って湧いたトピックに俺は興奮しなくもない。
「ふーん、どこ情報?」
「阿久津と同中のヤツ。さっき掃除時間に聞いた」
「…確かめようの無い噂だな。あんま広めんなよ」
「まーな、じゃ、俺は部活行くわー」
なら言うなよ、まったくエロに目敏い男子は節操が無い。
俺は田邑を見送って、靴箱へと向かう。
「(フェラ、上手いのか…てことは、阿久津もこっちなのか)」
俺は芝塚神、男として男が恋愛対象だ。
そうだから男子校を選んだ訳ではないが。
うちの高校は工業や情報などの技術系学科が充実している。
将来のことは特に決め込んでもないが、役に立ちそうだから選んだ次第だ。
阿久津春翔はクラスメイトで、線の細いお坊ちゃん系のイケメンだ。
頭は高校の中では良い方、クールとも気弱とも感じない、普通の男子だ。
俺はこの阿久津のことが少し気になっていて、それは単純にビジュアルが好みだったからだ。
クラス替えで一緒になって最初の日、「うわー、美人がいるわ」と釘付けになったものだ。
とはいえ男子校の姫になる訳でもなく、阿久津は男子として学生生活を送っている。
俺の恋愛対象は男だが、未だ恋愛をしたことは無い。
好きになったところで相手の趣向が俺と同じとは限らないから、選別する手段を持てるまでは動かないつもりだった。
けれど。
「(あ、)」
「芝塚、駅まで?」
靴を履きながら、阿久津が俺に声を掛けて来た。
クラスメイトだから会話は当然するものだが、向こうから話し掛けられるのは初めてだ。
「うん。阿久津も?」
「うん」
小学生じゃないから、「一緒に帰ろう」なんてわざわざ言わない。
俺たちは靴を履いたら自然と、並んで歩き出していた。
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