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ステージ12
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しおりを挟む実に順調に過ぎ行く日々、まだ若いのだし目立った出世で敵を作っても宜しくないか、経験を積みながら夏が過ぎ秋が過ぎ年を越した2月のある日。
久々に本社の嬉野さんから連絡が来て、近くのファミレスで落ち合うことになった。
「久しぶりですね」
「うん…宮前くんさ、単刀直入に聞くけどもね、副店長…やる気あるかい?」
「え、やりたいですよ!当たり前じゃないですか」
なんとなく察していた昇進話に、僕は当然喜んで即答する。
「ありがたいね、そのやる気…」
「うちでですか?それとも近隣店舗?」
「うーん…兵庫」
「兵庫⁉︎なんでまた…え?」
「オフレコなんだけどさ、皇路本店ってとこでフロア長がポカしてね、管理職総入れ替え的なことをするんだよ。エリアマネージャーも含めて…どうも体制が甘かったのかな、僕がそちらを見ることになったんだ」
「あ、嬉野さんも、」
よくよく聞けば横領だかなんだかで数人辞めたらしく、腐敗を一掃するために人事が動いたらしい。
本店の店長は本社管轄店で指導、他地域から新店長を召喚して他店から副店長を引っ張って…とパズルのように近隣で組み換えた結果、副店長ポストがポンと空いたそうだ。
「そう、それで…皇路西店っていう中規模店の副店長、そこにどうかなって…僕と駆け落ち」
「…え、嬉野さんもご家族いらっしゃるでしょう?単身赴任ですか?」
「ううん、僕は家族も連れて行くよ。元々が単身赴任だったのを家族をこっちに呼んだんだ…僕は兵庫の出だからね、親元にやっと帰れる感じ」
嬉野さんは社内結婚で奥様も子育てしながら勤務中、お子さんもいることだし揃って引っ越しするらしい。
「はー…」
「宮前一家が揃って引っ越すなら家族用の大きめ社宅の手配するし、向こうに奥さんのポストも用意するし…どうする?じっくり考えてよ」
「はい…」
全国展開企業の利点ってそういう所だよな、店さえあればどこに行ったって仕事がある。
さてどうやって里香ちゃんを丸め込もうかな、帰宅しながらいろいろ考えてはみたもののまとまりはせず、直接会議となった。
「リカちゃん、ちょっといいかな」
寝間着でソファーに並んで掛けて、嬉野さんからの提案を伝えてみたところ、里香ちゃんは全て頷きながら最後に
「………そっか…頑張ってね」
と適温のホットミルクをずびと啜る。
「え、ついて来てくれないの⁉︎」
「うーん…こっちで親の手を借りながらやろうかな…そっちの方が楽な気がする」
「え、寂しいよ、僕だけ独りって、」
「全国転勤があるから困るよねぇ…3年くらいで戻れるんでしょ?私、実家にお世話になろうかな、ここも引き払ってさ」
「えぇぇ…」
里香ちゃんの頭の中ではもうそれは決定事項みたいで、むしろ「心配しないで行っておいで!」くらいの気前の良さを感じさせた。
「家、焦って建てなくて良かったね」
「そう、だけど」
うるうると目を潤ませてもカップを持つ手を握り締めてみても山は動かず、かくして次シフトから僕は兵庫へ…嬉野さんとランデブーすることになった。
つづく
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