つまりは君は僕のモチベーションなわけで

茜琉ぴーたん

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ステージ1

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いずみさん、す、好きなんだ、付き合ってほしい!」

 決死の覚悟で挑んだ告白、しかし結論から言うと彼女の答えは「ノー」だった。

「ごめん、宮前みやまえくんのことは、そんな感じで見れない」

「なんで?どこを直せばいい?」

「仕事じゃないんだから…直さなくったっていいよ、宮前くんは今のままが素敵だと思う」

「…じゃあ後学のために教えて、どこが無理?」

我ながら往生際の悪い食い下がり方だと思ったが止められなかった。

 悔しさ半分恥ずかしさ半分、でも改善次第では可能性が上がるのか知りたいのだ。

「無理とかじゃない、…私ね、その…強い、男の人が好きなの。頼れる…人」

「僕だって頼ってくれたらいいのに」

「そういう…んー…まず同い年でしょう?そこで同列じゃない。会社では後輩だし…私より上に立てないじゃない……前に付き合った人が強引で、男らしい人で…忘れらんないの。宮前くんは…優しいタイプでしょ?合わないと思う」


 頭を強く殴られたような気持ちがした。

 女性に限らず人に優しく生きてきたのにそれを否定された、真面目が馬鹿を見るとはこのことか、と。

「え、意地悪な方がいいってこと?」

「意地悪っていうか…ちょいワル?悪人は嫌いだけど…オラオラ系っていうか…ワイルドな、ね、」

「…その人が忘れられないってだけで、オラオラ系が好きってわけじゃないんじゃないの?」

「んー…どうなんだろ…でもナヨナヨした男は好きじゃない…いや、恋愛においてってだけだよ?優しい宮前くんは会社の同僚として普通に好きだよ」


 嫌いではないのだ。

 僕を傷つけないために気を揉んでくれたのだろうが「好き」という言質げんちを貰った僕はここ一番の底意地の悪さを見せつける。

「…じゃあ、僕が泉さんより上になったら可能性は上がる?」

「…どうやって?私より先輩になれるの?」

「出世、泉さんより上の立場になったら…頼れるでしょう?」

「まぁそうだけど…えぇ…」

「君より出世して君の上司になる」

「入社2年目だよ?どこからそんな自信が…」

「言ったもん勝ちだよ。仕事のシステムと要領は覚えた、あとは管理職がどう動いてるか分析して先を見ながら仕事する。決めた、フロア長になってみせる」


 これはただの統計だが、僕がこの1年で出会った『管理職』という人種は総じて自信家で強気な男性だった。

 彼らも当然いち販売員からスタートしているのだろうから初めは小心者だったかもしれない。

 しかし若手と呼ばれる管理職は大概オラオラ系で、無理とも思える目標を敢えて掲げて自身を鼓舞して奮起するという有言実行タイプの人ばかりである。

 スピリチュアルなことはよく分からないがいわゆる言霊ことだまとかいうやつ、口から出してしまえば理想が具体化・具現化して達成へ近付くのではないか。

 僕はそう考えた。


「はぁ、宮前くんって…なんか変わったね、前はもっと大人しい印象だったのに」

「それ学生の頃のも混じってない?…さすがに働いて1年、図太くなったし周りが見えてきたよ」

「そっか…負けてらんないな」

「家電販売には最高店長まで道があるけどレジ部門はコーナー長まで、泉さんがコーナー長に上がったとしても頭打ち…いずれ追い越すよ」

「あら、フロア長だって夢じゃないし」

「…そうやって簡単に負けないところも好き。最初はただの対抗心だったんだ。でも…うん、泉さん、好きだよ」

「分かったってば…」


 ほらこうして口に出して表現すれば君の頭の中は今僕でいっぱいだ。

 その頬の赤みは僕の言葉がそうさせたんだ。

 もう意識しているだろう…僕は恋の種を撒くことに成功する。



 それからというもの、僕は働く姿勢を変えた。

 上司に指示を仰ぎながら「どんな指示を出されるか」を予想して備えた。

 販売に際しても数種類のパターンを用意し、成約への道順を複数想定することで納期待ちや品切れなどのアンラッキーに陥る危険性を潰していった。

 勝ちパターンが分かってきた…僕の売り上げはめきめきと上がり、指名で来てくださる固定客も付いてさらに自信が湧いた。



つづく
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