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ステージ13
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しおりを挟む「久しぶり、岳美くん、ちょっと痩せたんじゃない?」
「うん…リカちゃん、昼ごはん食べよう」
「……うん」
駅前のこってりしたラーメン屋でチャーシュー麺、なんだか就職したての頃を思い出してきゅんとなる。
「…ごめんね、心配させて」
「んー…まぁ浮気するなんて最初から心配はしてないんだけどさ、気分は悪いよね」
「うん…だよね」
「それにさぁ、相手の人とも今後一緒に働くわけでしょ?アプローチは続くんじゃない?安心できない」
「確固たる証拠が無いから…転勤とか断罪まではできなかった、ごめん」
「…岳美くん、保身に走ったんでしょ」
「え」
ギクリ、僕の社畜の心は大きく揺れた。
「え、そ、そりゃまぁ、大ごとにして怨みも買いたくないしさ、」
「違う、嬉野さんのこともあるんでしょう」
「……リカちゃんは鋭いなぁ…」
そう、僕が自らの身を案じたのはもちろんなのだ。
けれど就任早々ハラスメント問題で人事の責任を負う嬉野さんの事を考えると…これ以上引き延ばす気にはならなかったのだ。
前任は部下との癒着で横領を隠蔽していた。
後任はハラスメント管理職を連れて来たとなると本社人事部の株も落ちてしまうことだろう。
僕をここまで引き上げてくれた嬉野さんの名を汚すことなんてしたくない、僕はあらゆる保身で妥協点を見つけて問題の鎮静化を図ったのだ。
「そりゃあ嬉野さんにお世話になったのは分かるわよ、けどそんな忖度で事実から目を背けてたら前任の人たちとおんなじじゃない」
「ごもっともだよ」
「忘れてるのかもしれないけど、今回は私も被害者なんだよ?それなりにストレスだったしヤキモキした」
「うん、うん…」
天秤にかけたのは僕の名誉と嬉野さんの地位、そして店としての戦力。
残念ながらというか、里香ちゃんに対する汚名返上は秤に載せていなかった。
「岳美くん、私が傷付いてないとでも思ってる?本当…腹立たしい」
「ごめん…」
怒りながらもふぅふぅと麺を冷ます仕草が可愛い。
やっぱり生で見る妻は良いなぁなんて鼻の下を伸ばしているとギンと強く睨まれる。
「…岳美くん、早く食べて。用事があるんだから」
「うん、なに、買い物?」
「違う……ホテル」
「え、え♡」
「だから…早く食べて」
顔を真っ赤にした里香ちゃんはつるつると麺を啜って丼の底もしっかり綺麗にして、
「ごちそうさま」
と腕組みをして僕を待った。
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