つまりは君は僕のモチベーションなわけで

茜琉ぴーたん

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ステージ10

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「あ?知りたい?この前ケータイ売り場に入った***社の女だな、彼氏と別れたばっかなんだってよ、すぐヤレそうな顔してるから狙い目、ひゃはは。お前も声掛けてみたら?強がんなよ、あの嫁のボテ腹じゃ勃たねぇだろ!」

「…ノーサンキューですねぇ、どんな妻でも興奮しますし…フロア長の女性の話は面白いですねぇ、聴かせてくださいよ」

周囲はアイコンタクトをしながらも静まり返っていて、宇陀川うだがわが喋る度に妙にそわそわとするも、台車に載った在庫がみるみるうちに減って床へと積まれていく。

「あー、この前客でモロ好みの女がいてさぁ、ポイント倍付けしてやるっつったのに連絡先もくれねぇでよ、…………レジのバイトのババア、あいつブラ線透けてんだよ、ババアのくせに色気付いてやだね、旦那ももう相手にしねぇんだろうな……、店長の娘見たか?この前来たろ、ブスだよなぁ、嫁に似たんだろうなぁ、……、……、」

「(…上手く踊ってくれてるなぁ……そろそろかな……来た、)」


 奴が女性スタッフどころか顧客や上司の身内までもローテーションでけなし出して、他にも陰湿なパワーハラスメントが暴露された辺りでパタパタと革靴の底が床を蹴る音が階段の方から近付いてきた。

 それは店長と副店長、そして見慣れないスーツの男性の足音だった。

 店長は宇陀川うだがわに近付くなり

「馬鹿野郎!無線で何言ってんだ、全部聞こえてんぞ‼︎」

と奴の胸ぐらを掴んで凄む。

「え、なんで、俺、付けてないっすよ」

「知るか、お前が話したこと、全部丸聞こえだ、全員だ、仕事中に何やってんだよ‼︎」 

「は………!宮前みやまえっ、てめぇかっ⁉︎」

 宇陀川はすぐに離れた僕に掴みかかろうとするも、スーツの男性に

「ハラスメントになります、不利ですよ」

と制止されてその場にしゃがみ込んだ。


「違うんです、ただの雑談で、」

「その雑談が無線を通して皆さんの耳に届いていました。私も聴きました。話題に上っていた方々への侮辱と名誉毀損きそんにもなりかねませんよ。大人しく来て下さい」

「男ならこんな雑談のひとつやふたつするでしょう?」

「気分を害する話を広く聞こえるように発信しては問題になりますよ、さぁこちらへ」

「くそっ…」

「(効果覿面てきめんだなぁ…ざまぁ、)」

 スーツの男性は本社から派遣された人事部ハラスメント相談室の担当だそうで、宇陀川を人気ひとけの無い所へ連れて行き店長を交えて面談を始めるようだった。


「…宮前くん、奥さんが悪く言われてたのに止められなくて…言い返せなくてごめん」

 宇陀川の話を一番近くで聞かされていた男性社員はそう謝ってきたが、

「ん、いいよ。僕こそ、こんなことに巻き込んでごめんね。みんなが黙ってくれたからぺらぺら喋らせることができたよ、ありがとう」

とむしろ好プレーとばかりに礼を言う。


「さっさと片付けて売り場に戻ろうよ」

 僕は爽やかにこの場の主導権を握り在庫の山を綺麗に整えさせた。

 そして売り場に戻ると「妊娠中の妻をけがされた可哀想な夫」扱いされた。

 しかし宇陀川が喋り続けた数分で本来の業務が滞ってしまったことに関しては申し訳なかったので、各部門に頭を下げて回り僕は更に皆の支持を得ることとなる。

 そして倉庫にいた証人たちがそれぞれにあったことを噂で広め、数日後には「妻を守るために身をていして上司と戦い勝った夫」にまで格上げされていてなんだか可笑おかしかった。
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