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ステージ10
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しおりを挟む「白物の小動、最近化粧変わったろ、男知ったんだよきっと、お前聞いて来いよ、」
僕が宇陀川の小汚いしゃがれ声を耳にしたのは在庫が所狭しと並ぶ倉庫でのこと。
年末年始商戦用の商品が大量に入荷したので倉庫整理に駆り出された時のことだった。
話しかけられているのは気弱な中堅社員で、「えぇ、」「はぁ、」と相槌を打っては在庫の列を作って綺麗に整えていく。
この彼に対しては何の感情も無い。
返事をしなければ奴の機嫌が悪くなって面倒だから仕方ないとも言えるし、反抗したところで何も利は無いだろうから。
宇陀川はブランド物だと言っていたスラックスを汚したくないのか、商品の載ったカゴ台車の横にカカシのように突っ立って動きもしない。
同じくブランド物のワイシャツの襟とネクタイを緩めて大きな欠伸をしていた。
奴は勘違いしているのだが、なにも店長は僕らを監督するために奴に倉庫へ来るよう言付けた訳ではないのだ。
「皆で片付けて早く帰ろう」、そのために手の空いて暇そうにしていた宇陀川も呼ばれたというのに、すっかり司令塔気取りで薄っぺらい指示を出してくるのが腹立たしい。
「(働けよ…終わらないじゃんか…)」
「しっかし…泉は腹が大きくなったよなぁ、せっかくのスタイルが台無しじゃん、お前思わない?」
「!」
「顔はまだ可愛いけどさすがに老けたよな、やっぱ女は25までだねぇ、」
奴は僕が居ることに気付いていないのかそれともわざと聴かせているつもりなのか、ろくに手も動かさずべらべらと里香ちゃんのことを扱き下ろした。
「……」
カッとなっては負け、周囲には5人ほどスタッフが居るが、僕とフロア長を天秤にかければ向こうの言うことを聞くに決まっている。
こいつらはハラスメントの証人にはならない。
僕は特価品のラジカセの山を積み上げながら、これで全部録音して提出できたらなぁ」なんて妄想した。
「(…みんなが聞けば良いんだよ、言い逃れできないくらいの…みんなが…あ!)」
これはいけるかも、僕は持ち場を離れて奴の背後へと回り、奴の身なりを確認していけると踏む。
そして
「フロア長、あんまりうちの妻のことを吹聴しないで下さいよぉ、可愛い可愛い自慢の嫁ですよ♡」
と声を掛けて隣へ立ち挑発してみた。
「あ?おー、宮前いたの?…可愛いって…あんなデブになんのに可愛いのかぁ?実際どうなんだ、あのボテ腹、まだ抱いてんの?」
奴が僕共々里香ちゃんのことを貶し出すと、倉庫に居たメンバーの手がピタリと止まり総じて顔が強張る。
僕はそれをチラと見たが動き出そうとする者はいなかった。
なので
「抱けますよ、余裕です。それより、フロア長の最近のお気に入りはどなたなんですか?」
と会話を続けた。
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