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ステージ9
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しおりを挟むあの営みの夜から数週間が経ったある日。
帰宅した僕を迎えてくれた里香ちゃんの顔は青ざめていた。
どうも最近胸焼けがするとか言っていたが薬は飲まずにいたみたいで、今日などは休みなので化粧もしておらず、まるで覇気が感じられない。
「ただいま…リカちゃん、調子悪い?」
「うん…あの、岳美くん…あの、」
彼女が撫でるのはまだ何の膨らみも無いお腹、
「え、まさか、」
と僕が笑みを浮かべると
「そのまさか、……もう、生殖能力ばっちりじゃない」
と里香ちゃんも呆れたように表情を崩した。
「わ、マジで?ビンゴ?」
「大当たりだよ…もう…また産休取らなきゃ…」
「…嫌だった?」
「違う、30歳までに2人産みたいって…漠然とだけど思ってたから…それはいいの…でもさ、早いじゃん…もっとかかるかと思ってたの」
「もっと、子作りしたかった?」
輪ゴム遊びに熱中している息子を眺めつつ彼女の腰を抱けば、
「そうだよ、もっと…ううん、贅沢だよね」
と里香ちゃんは聖母の如く穏やかな顔付きに変わる。
「産休、制度的に問題は無いでしょ?」
「うん、おおよそ仕事復帰から8ヶ月で産前休暇、んー…無責任かもしれないけど、今しかできないことだからね」
「何か言われたらすっぱり辞めていいよ。家族4人分の食い扶持くらい稼げるから」
「ふふ、頼もしいね」
何人でも産んで欲しいなんて大きなことは言えないけれど、僕だって無計画に里香ちゃんを避妊なしで抱いた訳ではない。
専業で数年保たせるくらいには蓄えはあるし、いざとなれば実家を頼ってもいい。
「しっかし…排卵日だったのかな?」
「どうなんだろ」
「…エ、管理してなかったの?」
「だって、岳美くんいつもはちゃんとゴムしてくれるから……仕事の予定と保育園の予定とプライベートの予定と…曜日とか週数とかごっちゃになってたの…ごめんね」
確かにそうか、予防接種のスケジューリングも全て任せていたのだ。
何が何日なんて僕でも把握しきれない。
ぼんやり頭に浮かんだカレンダーの文字が性欲に負けて滲んでしまったのもあるだろうか。
いずれにしてもこれは避妊失敗ではなく妊活成功なのだ。
「謝らないで、こっちこそごめんね。まぁ結果オーライだよ……リカちゃん、体調悪かったのに薬飲まなかったね?分かってたんじゃないの?」
「ん…熱っぽいのが続いてたからね…もしかしてって思ってた……嬉しいね、私たち子作りしちゃった♡」
「うん、できるだけ安静にしよう、上長への報告は僕も付き添うから、必ず一緒に行こうね」
個人の妊娠など誰にも責められるものではないし攻撃されれば速攻反撃するつもりでいるのだが、里香ちゃんの上長である宇陀川は正直信用ならない。
万が一にもハラスメントをされては困るしあの温い眼差しで妻を視姦されては気色悪い。
考え過ぎても損は無いのだ。
僕はあらゆる可能性を考えつつ計画を練る。
「うん…岳美くん、ありがとう」
「こちらこそ…僕の子を宿してくれてありがとう」
「わぁん!」
引っ張っていた輪ゴムがぷちんと切れて息子が泣き出す、里香ちゃんはまだまだ手の掛かる彼を寝室へと連れて行った。
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