25 / 68
ステージ7
25
しおりを挟む「リカちゃん、僕来月のシフトから本店に戻ることになったんだ」
定時で帰宅した僕は、息子のご飯係をバトンタッチし里香ちゃんに先に食べるように勧めて話を切り出した。
「え、そうなの?希望してたの?」
「ううん、空きが出るからってエリアマネージャーに声かけてもらったんだ」
「そっか…忙しくなるね」
「うん…わくわくする…ん、あーん、」
息子は僕の表情を真似て眉毛を上げ下げして、スプーンを近付ければオモチャのように簡単に口を開く。
「漲ってるね」
「ふふ、…ねぇリカちゃん、仕事キツくない?大丈夫?」
「大丈夫だよ、できる範囲でレジさせてもらってる」
「ん、楽しみだなぁ…リカちゃんとまた同じ店で働けるんだ…宮前夫妻で…ふふっ、でも紛らわしいかな、宮前が2人だと」
「でも嬉しいよね」、そんな肯定的な言葉が聞けるかと思って話を振ったのに、彼女は
「それも大丈夫だよ、私、泉のままでやってるから」
と旧姓で働いていることを僕に明かした。
「は?……な、なんで、結婚したら名前変わるじゃん、変えた人いたよ?」
「うん、社員登録は宮前になってるけど、名札とかレシートの表記とか対外的なのは旧姓のままにしてもらってるの。これまでのお客様とか取引先さんにも分かりやすいし」
「え、えー、え、」
「またこうやって…同じ店舗で働くと思ってたから…旧姓のまま。ダメかな?」
「ダメじゃないけど……せっかく僕の苗字になったのに…」
凱旋を期待してくれていたのは光栄だけれど、「僕の里香ちゃん」が「会社の泉さん」なのはガッカリ感が大きい。
僕はなんだかんだで、いまだに学生のスクールカーストを引きずっている小物なのだろう。
「岳美くんと結婚したことはみんな知ってるし…まぁ最近の新人は知らないけど」
「ふむ…い、言い寄ってくる奴とかいない?」
「いないよ」
「リカちゃん、産後に色気が増したもん…メスのフェロモンが出てる、繁殖できる有能なからダッ‼︎」
宙に踊るスプーンを追って息子が僕の顔を叩き、「子供の前で何を言ってるんだ」と里香ちゃんも僕の耳を引っ張った。
「やかましい」
「…痛い…ごめん、あーん………リカちゃんがまたコーナー長になったら偉そうにされちゃうかなぁ」
「しないよ」
「…2人目、早いとこ仕込もうかなぁ」
1人目が予定外だったのでさすがに2人目は計画的に…そうは思うが僕は独占欲を暴走させて彼女を家に囲いたいとたまに思ったりもするのだ。
「……せめて1年は働いてからかなぁ…」
「ん…でもまた産休取れるんでしょ?」
「取れるけど…」
その後も僕は数回息子に「飯をサボるな」とばかりに顔を叩かれて、妻と交代して夕飯にありついた。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる