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ステージ7

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「リカちゃん、僕来月のシフトから本店に戻ることになったんだ」

定時で帰宅した僕は、息子のご飯係をバトンタッチし里香りかちゃんに先に食べるように勧めて話を切り出した。

「え、そうなの?希望してたの?」

「ううん、空きが出るからってエリアマネージャーに声かけてもらったんだ」

「そっか…忙しくなるね」

「うん…わくわくする…ん、あーん、」

息子は僕の表情を真似まねて眉毛を上げ下げして、スプーンを近付ければオモチャのように簡単に口を開く。

みなぎってるね」

「ふふ、…ねぇリカちゃん、仕事キツくない?大丈夫?」

「大丈夫だよ、できる範囲でレジさせてもらってる」

「ん、楽しみだなぁ…リカちゃんとまた同じ店で働けるんだ…宮前みやまえ夫妻で…ふふっ、でも紛らわしいかな、宮前が2人だと」


 「でも嬉しいよね」、そんな肯定的な言葉が聞けるかと思って話を振ったのに、彼女は

「それも大丈夫だよ、私、いずみのままでやってるから」

と旧姓で働いていることを僕に明かした。

「は?……な、なんで、結婚したら名前変わるじゃん、変えた人いたよ?」

「うん、社員登録は宮前になってるけど、名札とかレシートの表記とか対外的なのは旧姓のままにしてもらってるの。これまでのお客様とか取引先さんにも分かりやすいし」

「え、えー、え、」

「またこうやって…同じ店舗で働くと思ってたから…旧姓のまま。ダメかな?」

「ダメじゃないけど……せっかく僕の苗字になったのに…」


 凱旋がいせんを期待してくれていたのは光栄だけれど、「僕の里香ちゃん」が「会社の泉さん」なのはガッカリ感が大きい。

 僕はなんだかんだで、いまだに学生のスクールカーストを引きずっている小物なのだろう。

岳美たけみくんと結婚したことはみんな知ってるし…まぁ最近の新人は知らないけど」

「ふむ…い、言い寄ってくる奴とかいない?」

「いないよ」

「リカちゃん、産後に色気が増したもん…メスのフェロモンが出てる、繁殖できる有能なからダッ‼︎」

宙に踊るスプーンを追って息子が僕の顔を叩き、「子供の前で何を言ってるんだ」と里香ちゃんも僕の耳を引っ張った。

「やかましい」

「…痛い…ごめん、あーん………リカちゃんがまたコーナー長になったら偉そうにされちゃうかなぁ」

「しないよ」

「…2人目、早いとこ仕込もうかなぁ」

1人目が予定外だったのでさすがに2人目は計画的に…そうは思うが僕は独占欲を暴走させて彼女を家に囲いたいとたまに思ったりもするのだ。

「……せめて1年は働いてからかなぁ…」

「ん…でもまた産休取れるんでしょ?」

「取れるけど…」


 その後も僕は数回息子に「飯をサボるな」とばかりに顔を叩かれて、妻と交代して夕飯にありついた。
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