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ステージ2

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 時は過ぎて約1年後、勤続2年目の終わり、3月のこと。


「なーんか…宮前みやまえくんって凄いのね」

「何が?」

もはや恒例となった仕事終わりのラーメン会、彼女がそんなことを呟くもんだから僕は澄まして聞き返す。

「有言実行っていうか…1年で売り上げが超増えたし…上からも期待されてるじゃん」

「うん、いずみさんに宣言した通りだよ、頼れる男になりたいんだ」

「ふーん…大したもんだわ」

 届いたラーメンの大ぶりなチャーシューを新しい箸で摘んで僕の丼へ入れる、

「ありがとう」

と微笑むと彼女は目を逸らして、琥珀こはく色のスープをレンゲですくった。

「お返しに味玉あげようか」

「いいよ、自分で食べなって」

「あげる、今日は僕の奢りだから」

「は?」

 ぽかんと口の端からスープを垂らした彼女へおしぼりを渡し、僕は足元のカバンから青い幾何学模様が印刷された封書を取り出して接着部分を丁寧に開いていく。


 そして

「見て、今月の手取り。なかなかでしょ?泉さん、額は言わなくていいから、僕の給料より多く貰ってるかどうか教えてよ」

と給与明細を彼女の目の前へ掲げた。

「うわ、え、………待って、私の給料と何の関係があるの」

「僕の方が多く貰ってるなら、立場が少し変わるんじゃないかなと思って。で?………どうかな」

「……」

 下品なやり方だと思う。

 彼女の給与額を大体で予想してこんなことを仕掛けたのだから失礼極まりない。


「こんなに…貰ってない、……負けた」

「勝ち負けじゃないよ、今月は報奨金が付く商品を徹底的に売ったからね、新生活を始める人たちのおかげでブロードバンド契約もはかどったし…だから奢らせて」

「ほんと…すごい、」

ため息まじりにそう吐いて、彼女は麺をほぐして食べ始める。

 猫舌だから何回もふぅふぅと息を吹きかけて、それでも熱かったのか時折固まって。

 僕がその様子を眺めているものだから余計に困り眉毛になって…本当に可愛かった。

「僕は大卒でしょう、泉さんよりそもそも基本給の時点で3万円くらい差があるんだよ。でも泉さんの方が4年先輩で、昇給してるし閉店作業もあるから残業代と深夜手当が付く。でも事務より営業の方がプラスアルファも多くて…この結果、僕はもっと稼ぐよ」

「…あっそう」

「泉さんの仕事を馬鹿にしたわけじゃないよ、同期はここまで貰ってないはず…つまり僕の頑張りを認めて欲しいってだけなんだけど…ダメかな」

「認めるわよ、宮前くんはすごい」

口を尖らせた彼女は僕にくれたチャーシューを回収してもくもくと頬張る。

「玉子もあげる、ね、泉さん」

「…ありがと」

「んでさ、食べ終わったら…泉さんにもう一度告白するからさ、しっかり考えて欲しいな」

「え、」

 それは1年越しの再チャレンジ、ずるずると麺をハイスピードですする僕を見て彼女は慌て、本当に困った顔で2個目の味玉にかじり付いていた。
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