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ステージ1

4*

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 遡ることウン年前、僕こと宮前みやまえ岳美たけみの入社初日のこと。 


「PC担当になりました、宮前です、よろしくお願いします!」


 初出勤の朝礼で自己紹介をした僕に解散後初めて話しかけてきたのが里香りかちゃんで、しかしその言葉は意外なものだった。

「宮前くん…覚えてる?同じクラスだったいずみだよ」



「え、泉さん⁉︎あ、久しぶり、ムラタに就職してたんだね」

「うん、頑張ろうね、よろしく」

「心強いな…よろしく、」

「……お願いします、でしょ?」

「え?」

「敬語使ってね、私の方が先輩だから…ふふっ、じゃあね」

 先制パンチは向こうから、彼女は高卒で就職し大卒の僕よりも入社時点では4年先輩だった。

 僕が勉学やサークル活動に励んでいた間に彼女は立派なレジスタッフになっていたのだ。

 高校の時のクラスメイト・泉さんが大人になって再び僕の前に現れた、これはなかなかにショッキングでときめく出来事だった。


 彼女はありふれた言い方だと学年のマドンナ、リア充、いわゆるスクールカーストの最上位女子である。

 見た目の可愛さとリーダーシップ溢れる性格と、誰とでも分け隔てなく接する気安さが人気だった。

 同じく最上位に君臨する男子の彼女だったことは憶えている。

 男の方はいけすかなかったけど…泉さんに悪い印象は抱いたことは無い。

 彼女は僕なんかにも優しかったし、授業で同じ班になれば率先して「宮前くんはどう?」と発言権を与えてくれるような…いい人だったのだ。

 かく言う僕はまぁ冴えないというか普通というか、泉さんたちが主役なら僕は「モブ」、ドラマならエキストラといったところの端役もいいところだった。

 格別に目立つこともしないし落ちこぼれてもない、『クラスメイトその1』くらいの立ち位置だったと思っていたから…泉さんの方から気付いてくれたのは割と嬉しい出来事と記憶している。


 さて新人期間は各所から色んなことを教えてもらい、たくさん失敗して叱られ、幾度となく頭を下げるのが普通である。

 泉さんもレジや決済に関わることを厳しく指導してくれたし、しかし落ち込んでいる時はわざわざ声を掛けて励ましてくれた。


「宮前くん、元気出して」

「僕、向いてないのかなぁ、この仕事」

「何言ってんの、向いてるよ。きちんと対応できてる…入荷が遅れたのはお客様にご迷惑かけちゃったけど、宮前くんのせいじゃないよ、アンラッキー」

「僕、大人の人にあんなに怒鳴られるの初めてで…」

「うん、怖かったね、次は大丈夫だよ」

 こんな具合に、落ち込む理由は毎回違ったけど彼女は改善点があれば提案してくれた。

 そしてなんの気まぐれか、彼女お勧めのラーメン屋へ仕事帰りに誘ってくれたりもした。

「ここのラーメン美味しいんだよ、奢ってあげる」

「いや、悪いよ」

「いいよ、私先輩だから」

「同い年じゃんか…」


 卒業して4年も経つのに彼女はまだ僕の上に立っている。

 その関係性は頼もしく心地よく、しかしだんだんと仕事を覚えていけば徐々にわずらわしくなっていた。

 僕が成長すると同時に彼女もまた新しいことを覚えてさらに伸びていく。

 追い越したいけど追いつけない、普通なら4年も先輩の社員に対してこんなこと思うはずがない。

 なのにそう考えてしまうのは、同い年な上に僕がどこか彼女に対してコンプレックスを抱いていたからなのかもしれない。

 「チャラチャラしやがって」、「地味な者を見下しやがって」、これはクラスの僕より地味な生徒が影で言っていた悪口だ。

 彼らは泉さん含めたカップル諸共に浴びせていたようなのだが、いつの間にか無意識に僕もその考えに染まっていたらしい。

 同い年なのに上から偉そうに…冷静に考えれば社歴が長いのだから当たり前なのに、アドバイスも親切も穿うがった見方で卑屈にとる。

 ミスをしたり疲れた時などは特に顕著で、1年目の冬には彼女からの誘いを断ることが増えていた。
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