58 / 67
ステージ14
58
しおりを挟む1週間後、休日を使って引越し準備を一気にした。
急な引越しだが本社の社宅管理の担当が不動産屋との間に入り引き払いまで立ち会ってくれるらしい。
なので僕は最後の1週間は最小限の荷物でホテル住まい、既に完成しているマイホームへ社宅からの荷物はもう届いているそうだ。
「もしもし…僕の荷物は適当に置いておいてね、自分で動かすから」
『うん、なんか子供たちも察するものがあるみたい。ソワソワしてる』
「そっか…早く一緒に暮らしたいよ」
『もうちょっとだね、頑張ろ』
「うん…頑張るよ」
そして兵庫での引き継ぎを終えた僕はスーツケースを携えて東へ…3年ぶりの神奈川・甕倉本店へ踏み込んだ。
「お疲れさまです、こちら入館証を……み、宮前さん⁉︎」
「ただいまぁ、明後日からよろしくね」
守衛所を兼ねる商品管理室のメンツは当時と変わっていなくて、けれど僕は首から来客用の番号札を下げて名簿にサインする。
慣れ親しんだ階段を上がって3階事務所へ、現職の副店長と引き継ぎを済ませて悠々と売り場を見学させてもらった。
「あ、宮前フロア長だ」
「ふふ、今度は副店長だよ」
「そうなんですか、おめでとうございます」
「ありがとう、頑張ろうね」
改装したのだろう以前と物の配置が変わっている。
レジの位置や電源・防犯カメラも確認しつつ挨拶がてら周回してみる。
生活家電コーナーの冷蔵庫が並ぶ一角、ひょろりと見覚えのある立ち姿が見えたので僕は敢えて近付いた。
「いらっしゃ……宮前、」
「あぁ宇陀川さん、お久しぶりですね」
「…戻って来たのか…兵庫ではさぞや羽を伸ばしたんだろうなぁ?」
「口を慎んでください、僕は貴方の上司になります」
「…チッ…」
「今度奢りますよ」
「結構でーす…チッ…」
奴は性格こそド腐れ野郎だが営業力は店内でもピカイチだ。
上手く操縦していければ良いな、僕としては含みの無いピュアな笑顔を作ったつもりだったけれど彼には真意は伝わらなかったらしい。
ちなみにだが奴は営業力はあるものの、あの一件を覚えている者が多数居る中ではやり難いらしくなんとなく孤立しているらしかった。
これはなんとかしなければね、そんなことを考えつつ配送カウンターへと足を向ける。
「……いたいた…泉さん!」
「はい…あ‼︎岳美く…じゃない、宮前副店長、もう着いてたんですね」
久々に見る里香ちゃんの制服姿は絶品だ。
お出かけ用のメイクとも違うキリッとした眉毛はいまだに対峙するとドキドキする。
「引き継ぎしてた…これから帰って、片付けするよ。子供たちのお迎え、僕行っていいかな?」
「うん、ありがとう…19時予定にしてるからそれまでにお願い」
「じゃあ早めに行って晩ご飯作るわ」
「ありがと♡きっと喜ぶよ」
張り詰めていた糸がたるんと弛む、周りのレジスタッフは微笑ましげに、けれど物珍しいといった顔で里香ちゃんと僕のやり取りを眺めていた。
きっとまだ会社では厳しいキャラで通ってるんだろうな、僕は初顔の社員さんへ自己紹介をしつつ店を後にする。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同期の姫は、あなどれない
青砥アヲ
恋愛
社会人4年目を迎えたゆきのは、忙しいながらも充実した日々を送っていたが、遠距離恋愛中の彼氏とはすれ違いが続いていた。
ある日、電話での大喧嘩を機に一方的に連絡を拒否され、音信不通となってしまう。
落ち込むゆきのにアプローチしてきたのは『同期の姫』だった。
「…姫って、付き合ったら意彼女に尽くすタイプ?」
「さぁ、、試してみる?」
クールで他人に興味がないと思っていた同期からの、思いがけないアプローチ。動揺を隠せないゆきのは、今まで知らなかった一面に翻弄されていくことにーーー
【登場人物】
早瀬ゆきの(はやせゆきの)・・・R&Sソリューションズ開発部第三課 所属 25歳
姫元樹(ひめもといつき)・・・R&Sソリューションズ開発部第一課 所属 25歳
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆他にエブリスタ様にも掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる