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ステージ14

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 1週間後、休日を使って引越し準備を一気にした。

 急な引越しだが本社の社宅管理の担当が不動産屋との間に入り引き払いまで立ち会ってくれるらしい。

 なので僕は最後の1週間は最小限の荷物でホテル住まい、既に完成しているマイホームへ社宅からの荷物はもう届いているそうだ。


「もしもし…僕の荷物は適当に置いておいてね、自分で動かすから」

『うん、なんか子供たちも察するものがあるみたい。ソワソワしてる』

「そっか…早く一緒に暮らしたいよ」

『もうちょっとだね、頑張ろ』

「うん…頑張るよ」



 そして兵庫での引き継ぎを終えた僕はスーツケースをたずさえて東へ…3年ぶりの神奈川・甕倉カメクラ本店へ踏み込んだ。


「お疲れさまです、こちら入館証を……み、宮前さん⁉︎」

「ただいまぁ、明後日あさってからよろしくね」

守衛所を兼ねる商品管理室のメンツは当時と変わっていなくて、けれど僕は首から来客用の番号札を下げて名簿にサインする。

 慣れ親しんだ階段を上がって3階事務所へ、現職の副店長と引き継ぎを済ませて悠々と売り場を見学させてもらった。


「あ、宮前フロア長だ」

「ふふ、今度は副店長だよ」

「そうなんですか、おめでとうございます」

「ありがとう、頑張ろうね」


 改装したのだろう以前と物の配置が変わっている。

 レジの位置や電源・防犯カメラも確認しつつ挨拶がてら周回してみる。

 生活家電コーナーの冷蔵庫が並ぶ一角、ひょろりと見覚えのある立ち姿が見えたので僕は敢えて近付いた。

「いらっしゃ……宮前、」

「あぁ宇陀川うだがわさん、お久しぶりですね」

「…戻って来たのか…兵庫ではさぞや羽を伸ばしたんだろうなぁ?」

「口を慎んでください、僕は貴方の上司になります」

「…チッ…」

「今度奢りますよ」

「結構でーす…チッ…」

 奴は性格こそド腐れ野郎だが営業力は店内でもピカイチだ。

 上手く操縦していければ良いな、僕としては含みの無いピュアな笑顔を作ったつもりだったけれど彼には真意は伝わらなかったらしい。

 ちなみにだが奴は営業力はあるものの、あの一件を覚えている者が多数居る中ではやり難いらしくなんとなく孤立しているらしかった。

 これはなんとかしなければね、そんなことを考えつつ配送カウンターへと足を向ける。


「……いたいた…いずみさん!」

「はい…あ‼︎岳美たけみく…じゃない、宮前副店長、もう着いてたんですね」

 久々に見る里香りかちゃんの制服姿は絶品だ。

 お出かけ用のメイクとも違うキリッとした眉毛はいまだに対峙するとドキドキする。

「引き継ぎしてた…これから帰って、片付けするよ。子供たちのお迎え、僕行っていいかな?」

「うん、ありがとう…19時予定にしてるからそれまでにお願い」

「じゃあ早めに行って晩ご飯作るわ」

「ありがと♡きっと喜ぶよ」


 張り詰めていた糸がたるんとゆるむ、周りのレジスタッフは微笑ましげに、けれど物珍しいといった顔で里香ちゃんと僕のやり取りを眺めていた。

 きっとまだ会社では厳しいキャラで通ってるんだろうな、僕は初顔の社員さんへ自己紹介をしつつ店を後にする。
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