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ステージ13

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「神奈川の店舗から参りました、宮前みやまえ岳美たけみです。よろしくお願いします!」

 明らかに若過ぎる管理職の登場にスタッフの顔が一瞬ピリつくのが分かった。

 なぜピリつくかって、それはあまりに若い者だと極度のオラオラ系か冷酷なやり手か、あるいは強大なコネクションでのし上がったか…年齢不相応だとそんな推測なんか持たれたりするからだ。

 ともあれ手前味噌だが温厚に努力を重ねて実力で登り詰めた僕は、数日過ごせばなんてことなく平和に店を運営できていた。


「宮前副店長、ちょっとよろしいですか」

「価格相談お願いしまーす」

「違算が出てます、確認を」

「はいはい…」

 役職が上がるとこんなに応対が増えるんだな、元の店舗より規模も客数も小さいのに僕の所にはひっきりなしにスタッフが訪れて質問なり相談なりをして来られる。

 中には「あの人とはソリが合わないからシフト調整して欲しい」とか私情もありありで…人間関係は割と早く把握できた。

 一方私生活もそれなりに張り切って、少しでも生活費を浮かせるために毎晩自炊してつたない夕食を撮影しては里香りかちゃんへ報告している。

 ご飯はまとめて炊いて小分けにして冷凍、ちくわ1本でも何かしら火を加えて皿に盛ることでオカズとして有り難く頂いていた。





「宮前副店長、この前の件なんですけど、」

「はい、」

 初めて訪れた関西地区、言葉こそ荒っぽく聞こえるが皆人柄は良くて温かい。

 しかしあぁ嫌だな、せっかく相談に来てくれたのに、僕はゾワっと背中に悪寒が走る。

 今書類を持って来た茶頭さとうさんはレジのボスだ。

 いろんな意味で店内の女性スタッフの頂点に君臨する中堅社員なのだが…僕はできればあまり近寄りたくない。

「メーカーからの対応がここまで進んでるんですけど、お客様宅へ行けるのが早くとも10日だそうで、どうにかならないかって、」

「んー…半月後か、代替機でも出してくれるよう聞いてみるかな、」

「お願いできますか」

「聞くだけ聞いてみるよ」

「ありがとうございますぅ、」

「……」

 シャンプーの香りが分かるほどに近い距離感、それどころか僕の腕には彼女のおそらく横乳が当たっている。

 ここから少しでも向こう側に動けばそれを押し返すことになるので、僕は彼女と会話する時は反対側に重心を置き両手を周りから見える位置まで上げるようにしている。

 まるで満員電車内の痴漢冤罪対策、しかし万が一にも疑われるようなことがあればここで働けなくなってしまうので、できるだけのことはやるつもりだ。

「(わざと…だよなぁ…色仕掛けしてなんの得があるんだよ…)」

 僕が既婚者だということは結婚指輪を見れば明らかだ。

 スマートフォンの壁紙は家族の写真だしデスクにも飾ってあるし部下と嫁自慢をしたりするし、僕が愛妻家であることはほぼ周知の事実なはずである。

 よくいるコミュニティクラッシャーってやつかな、いずれにしても僕は手近な人に手を出すほどさかってもない。

 里香ちゃんじゃなきゃ勃たない…は言い過ぎだけど、こんな小細工をする女性は好きじゃない。
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