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ステージ5
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しおりを挟む就職して4回目の秋。
相変わらずコーナー長として働く僕たちは、夜のデートで普段行かない鍋料理屋へ入った。
希望したのは里香ちゃんで、久しぶりに会った彼女は忙しさのためか疲れた様子で顔色が悪い。
「お疲れ様…リカちゃん、なんか体調悪い?」
「うん…あの、岳美くん、言わなきゃいけないことがあって…」
「なに、良いこと?悪いこと?」
「どっちか分かんないから困ってるの…あの、あのね、」
珍しく小さな声になった里香ちゃんは個室の周囲を気にしながら、
「私…できちゃった、みたいなの…」
と申し訳なさそうに眉尻を下げた。
僕はポカンとして「できちゃった」の意味を考え、ここ最近のセックスの盛り上がりを思い出してにわかに興奮する。
デートの予定が合わずラーメン会の後にホテルに押し切った時もあった。
とにかく暇を見つけては里香ちゃんを抱きたかったし彼女もそれに合意してくれていた。
もちろん避妊はしていたけど生理周期とかいいか駄目かその辺りの判断は里香ちゃんに丸投げしていたし、際どくてもせっかく迫られて断り辛いという心理もあったことだろう。
さてそんなことを刹那に考え動きが止まること3秒、
「え、やったぁ、性別は?いつ生まれる?名前どうしようか、」
と僕が口を開けば里香ちゃんは目をまん丸にして
「あ、」
と呟いた後やっと瞬きを再開した。
「なに、僕が嫌がるかと思ってたの?心外だな、超嬉しい…そうだ結婚しなきゃ、リカちゃん、結婚しよう!」
「は、い……あの、いいの?」
「なにが、いいじゃん、嬉しいな、嬉しー…」
予定外ではあるが喜ばしい知らせに僕はすっかり高揚して、無用にメニュー表を開いては色とりどりの料理の写真と向かいの里香ちゃんの顔を交互に見比べる。
「そうかぁ…赤ちゃんできたのかぁ……エッチしまくってたもんね、ふふ♡そっかぁ、うんうん…とりあえず乾杯しよ、辛いのはやめたほうがいいね、悪阻とかあるの?予定日いつ?」
「待って…」
僕らはお茶で乾杯し、新しい命と家族のスタートを祝福した。
そして改めて後日、僕は泉家をスーツで訪れて順番が逆になって申し訳ないが結婚をする意思があることを伝え、彼女のお父さんに深々と頭を下げた。
ちくちくとイヤミは言われたけど娘を大切に想う父親として当然だと思う。
なんなら日頃トンチンカンな客からのクレーム対応に慣れている僕はお父さんの理路整然としたお説教は非常に聴きやすくて助かった。
突然のことにご家族を驚かせてしまったけど、大卒で大手でまぁ顔も悪くないしハキハキした受け答えが好印象に映ったと思う。
「この子をよろしくね」とお母さんが大皿料理を持ち込んだらすぐに宴会になりお父さんにも笑顔が見えた。
ちなみに後日改めてうちの両親も泉家を訪ねて頭を下げてくれて、喧嘩にでもなると思いきや「まぁお互い様」と打ち解けて両家の関係が密となった。
そんな試練や通過儀礼も乗り越えて僕らは入籍、里香ちゃんの店の近くのアパートに居を構える。
僕の実家にいずれお世話になるかもしれないけど新婚生活も味わっておきたかったし、全国転勤も視野に入れているので新生・宮前家だけでどこまでやれるか知っておく必要もあったのだ。
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