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ステージ2

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「ふー…美味しかったね」

「うん…ごちそうさま」

 言った通り彼女の分も僕は支払い、駐車場で互いの車の間に立ち…

「どういたしまして…いずみさん、改めて言うよ。泉さんのことが好きです、付き合ってください」

ほぼ勝ちを確信していたから自信たっぷりに再告白を仕掛けた。

「あ、あの、」

「やっぱり出世しなきゃダメかな」

「いや、その、ご、ごめんなさいっ……私、彼氏、できたの…」

「ハァ⁉︎」

 聞いてない、そんな素振りも無かった。

 暗がりでふつふつと腹の底からあぶくが上がりだす。


「ごめん、正確にはできそう、なんだけど…」

「……なんで彼氏候補がいるのに君を好きな僕と二人きりで食事なんてできるの」

「ごめん、宮前みやまえくんはその…」

「僕じゃ浮気にもならないってことか、舐められてるな」

ぷくぷく泡は大きくなって腹も肝も心臓までもぐらぐらと震え出して、僕は拳を握り締めて力と熱をそこへ逃した。


「ごめんなさい、同僚として…仲良くしたいだけなの、それは本当…」

「どんな奴?彼氏候補って」

「え、あの……も、元カレ…ヨリ戻りそうなの」

「ふーん……ふーん、ふーん……そう…か、なら仕方ない、な、」

 沸騰していた気持ちが煮え切って空の鍋がすぅと冷めていくような感覚だった。

 きっと胃に入ったラーメンから得ていた熱が冷めたからだろう。

 僕は拳を開いて車の鍵を開ける。

 そして

「ごめんね、しつこくして…」

と彼女と目を合わさずに運転席のドアを開き乗り込んだ。


 やはり好みのタイプを超えることなんてできないのか。

 失意の僕は無表情のまま、エンジンをかけてさっさと家路に着く。



 よくよく考えてみれば弱っている時に優しくしてもらったというだけで泉さんでなければならない絶対的な理由なんて無かったのだ。


「(……モテない男は食事だけでその気になるってんだよ…)」

熱い湯に浸かって目を閉じ彼女を思い浮かべる。

 ついさっきまで愛しく感じていたその姿は何故か僕の頭上のフキダシではぼんやりとボヤけてあやふやだった。

 女性なんて世界には山ほど居るというのにこの喪失感。

 1年前の失恋よりも心に堪えて苦しくて、歯を食い縛りシワをこしらえた眉間を湯船の湯で洗って拭う。


「どうしたもんかな…」

 さて失恋も辛いのだがもうひとつ困ったことが、仕事における出世へのモチベーションを僕は失ってしまったのだ。

 彼女より上を目指そうとしたから張り切ってきたのに目標が消えてしまった。

 一番良いのはもう一度奮起材料となる女性を見繕うことなのだがそう簡単に見つかろうはずもない。

 かと言って泉さんを彼氏から奪うような…期待させて僕を振った悪女を得たところで価値も無いように感じた。

 可愛さ余って憎さ百倍、それならば彼女をギャフンと言わせることを目標にするか…しかしそれも大した成果にはなりそうにない。

 だって彼女はいい人なのだ。

 昇進すれば笑って「おめでとう」と言ってくれるだろうことは確実なのだ。


「しかし彼女は僕をもてあそんだぞ?」

「いいや、生まれながらに悪人などいないよ」


 僕の中の天使と悪魔が交互に意見を交わして場を荒らして…すっかり茹だった僕は自宅の脱衣所で丸裸のまま昏睡してしまった。

「きゃー⁉︎岳美たけみ‼︎きゅ、救急車⁉︎」

「だいじょうぶ、母さん…だいじょーぶ…」


 新しい目標を立てなきゃやっていけないな。

 僕は脱衣所で仰向けになりぐるぐる回る天井に彼女のシルエットを投影する。



つづく
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