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プロローグ・鬼嫁ちゃんと僕
1*
しおりを挟むとある神奈川県甕倉市の家電量販店ムラタの店舗にて。
レジ業務をメインとする営業事務のお局さんが、バックヤードで後輩スタッフを叱っていた。
「あんたね、字が汚いのよ。いつも言ってるでしょう、数字が読めないのよ、型番間違えて違う商品手配されちゃったらどうすんの?」
「いえ、無線で確認していただければ」
「レジ打ち中にあんたにわざわざ無線飛ばせって言うの⁉︎その確認をこっちがしてあげなきゃいけないわけ⁉︎」
「あの、」
「あとこれ、お客様情報もこのサインペンじゃ太くて何が書いてあるか分かんない。電話番号とか番地とか、カード登録内容と照合するのが困難。私たちが打ち間違えたらこの後の商品管理室の登録の方、実際に配送して下さる方、ひいてはお客様にご迷惑がかかんのよ⁉︎分かる?書いてもらう用のいいペンの1本くらい持ち歩きなさいよ」
「すみません…」
お叱りの内容は事務方からすれば至極もっともなことだ。
売るだけ売ってレジに丸投げという販売担当の弛んだ態度は会社的には良くないことは事実である。
乱筆な彼が注意をされるのは毎度のことで、現に打ち間違いや確認作業でレジが滞ったりという細かいトラブルが数回起こっているのだから事務側も必死だった。
バックヤードを通り過ぎる他のスタッフは叱責される彼に同情の目を向け、しかしお局を諫めることもできずヒソヒソと陰で噂する。
「こえぇ…泉コーナー長」
「鬼嫁ってやつ?宮前店長、よく我慢してられんなぁ」
「財布の紐とかギチギチに締められてそうだな」
「ありそう、でも子供も2人いるんだろ?そっちも怒られながらスんのかな、想像できねー」
「店長優しいのに…奥さんのどこが良かったんだろうな」
泉というのは例のお局、勤続20年近い37歳のレジコーナー長・泉里香のこと。
そして宮前店長というのはこの僕…彼女とは同級生の宮前岳美のことである。
苗字が異なるのは同店に同姓がいると面倒や不便が起こり得るからで、戸籍上は泉さんは『宮前里香』、僕の可愛い妻なのだ。
「(…分かってないねぇ…ふん…鬼嫁かぁ…)」
今日に限らずスタッフからの評判は耳に入ってくるし、彼女を見る周囲の目からもどう扱われているかは嫌でも分かってしまう。
僕もついお局と表現してしまったが、怒らせると面倒で2人きりだと息が詰まる、上手くやれば褒めてくれるが堅物の頑固者。
販売担当の年下スタッフや、共に働いた期間の浅い者からするとそんなところだろう。
説教も5分を経過したのでぼちぼちかと
「まぁまぁ泉コーナー長、彼も反省してるじゃない」
と表からバックヤードを窺えば、
「店長がそうやって甘やかすから、進歩が無いんです!」
と振り向いた泉さんからこれまた手厳しく僕が叱られてしまった。
「直すよねぇ、前より彼の字はキレイになってるよ」
「それでもまだです、相手に読んでもらえる字を書かなきゃ意味ないでしょう」
「飛び級で上達するわけないだろう?彼はスローペースなだけだよ、成果はしっかり出てる…3と5の見分けが付くようになっただけでも進歩じゃないか、ね、」
「……」
「はいはい、怒りの感情は持ち続けても良いことないよ、解散解散、」
パンパンと手を叩いて泉さんを表へと戻らせ、僕は意気消沈した販売担当の彼を慰めてから売り場へ戻らせる。
僕の店での立ち位置はこういう…潤滑剤のような、間を取り持つような得な役回りである。
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