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15章…まるで人間
85(最終話)*
しおりを挟む「え、買うんですの?」
「うん、ほら、ロババな、コスプレ衣装を見たことがある」
「いえ、すみません、冗談で」
「待ってね、検索するから…」
老眼が入り始めた和臣さんは、スマートフォンを顔から遠ざけながらインターネットで近辺のバラエティ雑貨屋・『ロバ・バ』を探す。
このままでは安いペラペラの生地の制服を着せられてしまう、楽しいかもしれないがもう少し若い時にする遊びだと思った。
「あの、私もう38になりますの」
「知ってるよ、それがなんだ……お、六本木まで出たら店舗があるよ、行ってみよう」
「和臣さん!」
「良いだろ、聖良とはこんな遊びもしたことがなかった。楽しいんだ…人の不幸に託けてすまない、でも君を縛るものがひとつ消えた気がして…より僕のものになった気がして…嬉しいんだ」
「……」
スーツの彼とカラーフォーマルの私、こんな姿でコスプレ衣装を漁るなんて恥ずかしくて皆に顔向けできない。
でも財布を持って「行こう!」と私を呼ぶ夫の元気で溌剌とした青臭さはあの頃と同じ…私がファイリングしていた写真と変わっていなかった。
「仕方…ありませんわね」
「ブレザーと、セーラー、ルーズソックスも買おう」
「…履いたことありませんわ、校則が厳しかったので」
「チアガール、ミニスカ婦警、あとなんだろうな、端から端まで全部買おう」
「……楽しそうで何よりですわ…」
きっと本当にあるもの全種類お買い上げになる。
自宅に持ち帰って隠すのは私の仕事なのにいい気なものね、荷物に入るかしら…なんて先回りしてものを考える。
「聖良はなんでも似合うだろう」
「そうでもありませんわ……お待ち下さい、私が……どうぞ、あ」
エレベーターホールに着くと昔の癖でボタンを先に押してしまう。
乗り込んで自然に操作パネルの前に陣取った私を見た和臣さんは「ふふ」と笑い、
「さすが、優秀な秘書さんだなぁ」
と口付けを下さった。
「和臣さまだけの…聖良ですわ」
「あぁ。どうだ、そろそろ言葉遣いを直しては?」
「…癖ですから…これが私ですから」
「そう、確かにね」
失われた時を取り戻すかのように、新しく生まれ変わったかのように。
薄暗い街へ飛び出した二人の足取りはあの頃のように軽い。
手を繋いで、見つめ合って笑いながら歩く。
夜の帳が降りて東京タワーも消灯した頃、私たちの部屋には二人の無邪気で熱い歓喜の声が響いていた。
おわり
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