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12章…血統の価値

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 和臣さんはその後諸々もろもろの準備をして買い物をして、私が目を覚ました時にはうちのキッチンで夕飯を作ってくれていた。

「おはよう、もう夕方だけど」

「あ、すみません、私がやりますわ」

「良いんだ、寝ててくれ…僕の子を身籠もってるんだ、安静にしててくれ」

「…はい…ありがとうございます…あの、今後の話を」

 頭がはっきりしたので再度話し合いをと進言すれば、

「ん?結婚承諾したじゃないか。婚姻届も貰って来たから後で書こう。それとも日取りとかの話かな?」

と彼は背中越しに反論の芽を摘んで取り付く島を与えない。


「いえ、だって」

「聖良、女といえども二言は無いぞ。君は僕の求婚に『はい』と応えたろう」

「そう…でしたっけ…?」

「そうだよ、寝ぼけてたのかな、また夜景の見える所で改めてプロポーズさせてくれ、写真なんかも撮りたいだろ」

「…はぁ…」


 丸め込まれている、でも「言っていない」と断言できる材料があるはずもなく…食後に「録音、聴く?」と言われれば完全に白旗を挙げざるを得なかった。

 彼はどうやらボイスレコーダーを起動させていたらしい。

 言った言わないを回避するための仕事道具をこんな風に使われてどうにも悔しい。

 妊娠検査薬といいレコーダーといい用意周到過ぎて本来の私の業務を食ってきている感じ、私が撫然ぶぜんとそう伝えると

「優秀な聖良を近くで見ていたから仕事ぶりがうつったんだろうね」

溌剌はつらつと返されてもう何も言えなかった。


「…不安か?」

「そりゃあ…契約を無かったことにするんですもの…どんな罰を受けるか…」

「契約者が変わるだけだ。養母さんとやらに入る金が減る訳じゃないんだから問題ないさ」

「…その契約者を説得するのが…難しいって話です」

 手放しで喜べないのはそれがあるから、果たして和臣さんはご隠居をどんな理屈でねじ伏せる気なのだろうか。

 正義で叩くのか、はたまた脅すのか、老人相手に手荒な真似はしないだろうがもしものことを考えて話し合いには私も同席する予定だ。

「平和的に解決するよう心掛けるから…心配しなくて良い」

「…はい」

「さぁ、食べよう」


 和臣さんが作った牛丼は母親譲りの朗らかで素朴な味わいだった。

 初めてなのに何故か懐かしい気持ちでいっぱいになって…私はまた涙を流しながらぺろりと平らげた。



つづく
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