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12章…血統の価値

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 しかし何の拍子か心の片隅に引っ掛かっていたわだかまりがころんと思い出されて、

「あ…和臣さん、お見合いをなさったんですよね、どうしましょう、相手の方にお断りをせねば…失礼を詫びなければ…」

と彼の手を強く握り返した。

 美術館デートを予定していると言った、エクボがどうだとか言っていた気がする。

 生返事しかしなかったがきっと名家のお嬢さまだろうからそれなりに迷惑料など支払わなければならないかもしれない。


 けれどあわあわしている私の手を包み返してもにもにと揉んで、彼は口癖である「すまない」を笑いながら繰り出した。

「…?」

「あはは、すまない、聖良…お見合いはしてないんだ」

「…え?」

「まぁ正確にはお会いして、きちんとお断りさせてもらったんだよ。これまでも難ありとか断り易い方を選んでいたんだ…申し訳ないけどね。今回もお見合い連敗という方に申し込んで、一応向こうの顔を立てて会食の席を設けた。しかし話が分かりそうな方だったから、2人きりになったタイミングで『心に決めた女性ひとがいて、今回も断る予定です』と失礼を詫びた。相手方も政略的な見合いには慣れているらしかったぞ、『お互い大変ですねぇ』と笑っていた…しかしすぐ断ればまた次の件が紹介されてしまうだろ、だから聖良とのことがまとまるまで順調に見合いが進んでるように見せかけようと…手を組んだんだ。あちらさんも親には明かしてないが心に決めた相手がいるらしいんだ。だからもう少し粘ってみて価値観の不一致とかの破談にしようと話していた」

「…デートは?」

「するわけないだろ。まぁ出向いたという実績は欲しいから出掛けるつもりではあったけど」

「エクボが可愛いと」

「聖良がイメージし易いように言っただけだ。僕が可愛いと思ってるのは聖良だけだよ」

「はぁ……はぁ、」


 呪縛から解き放たれたような不思議な感覚だ。

 胸の奥がぽかぽかとして熱くて、充足感と倦怠感が押し寄せてまぶたがいよいよ重い。

「聖良、人間はキレイなだけじゃない。色んな人を騙して誤魔化して…僕らが結ばれることでじいちゃんの望みは一部無いことにしてしまうけど…それくらいのずるさは僕は悪だとは思わない。そもそもお金でどうこうということがダメなんだから」

「はい…」

「有名人の恋愛の馴れ初めだって良い部分を掻い摘んで話してるだけだ。不倫略奪婚だって数年すれば『真実の愛』なんて呼ばれたりするもんだ」

 あれ、私はもしかして彼よりも生真面目な性分だったのか。

 あらゆる角度から見て完璧な形でなければ和臣さんに相応ふさわしくないと思っていたのに…綺麗ばかり追求しても意味は無いのかな、価値観だとか夫婦感みたいなものがぐらぐら崩れていく。


 反論するべきところは反論せねば、けれどぶわと睡魔が迫って来て思考が停滞し始めていた。

「……すみません、何だか…眠たくて…」

「うん、眠りなさい…結婚はするよ、良いね?」

「あの…また起きてから…」

「するよ、聖良。返事は?」

「…ん……は、い…」

「うん、おやすみ、僕の奥さん」


 そうか妊娠によるホルモンバランスのせいもあるのかな、私はうとうととしてそのままぐっすり眠ってしまった。
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