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9章…悪の道
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しおりを挟むバスタブに向けて全開にしたシャワーを浴びせてゆるゆると服を脱ぎ、アクセサリーを外してアメニティーグッズの中からメイク落としを探した。
さすが高級と呼ばれるホテル、シャンプーから化粧水まで有名ブランドの品で揃えてある。
化粧を落としてまとめた髪を下ろして解して広げて、強水圧のシャワーに打たれると纏わり付いたものが落ちて流れて行くような錯覚がして気持ち良い。
「…とりあえず…お見合いが始まるまでは現状維持…かな…」
ここで捨てられる訳にはいかないの、こんな高尚な暮らしを覚えてしまっては一般以下の生活に戻れるはずがない。
しかし和臣さんはもう私を抱きはしないだろう。
こんな邪な考えの下で動く女を清純なあの人は愛せやしないだろう。
4年見てきたのだからそれくらい分かる、なのに、なのに…モヤモヤとしたわだかまりがずっと胸に留まり渦巻いたままだ。
私の告白を聞いて「そうか、ならじいちゃんの意に沿って君を抱こう」と手を出してくる男ならどれだけ楽だっただろうか。
こちらも教わったことを存分に発揮して搾り取って、その代わり仕事に精を出してもらって暮らしを保障してもらえれば両者損は無い。
ちなみに体を開くことに元々善悪の感覚など無いし、ストレッチやパーソナルトレーニングと同じくらいの扱いだ。
そう、それくらい、日常的にあって特別なものでもないけれど丁寧に交わって派手に鳴いて、繰り返し求めるほどに自信を付けた和臣さんは出逢った頃よりも格段に色気も頼もしさも増している。
今の彼は私が育てたと言っても良いくらいだわ、さしずめ私がトレーナーで彼が生徒。
協力してできたルーティンやパターンで未来の奥さまも骨抜きにされることだろう。
「……私が…育てた……和臣、さま…」
これは独占欲?身ひとつで引き取られ名前すら捨てた私は何も所有していない、物欲も無い、そんな私がこの気持ちを抱くなんておかしい。
育んできた和臣さんを他の女性に差し出さねばならないなんて、その女は狡い、その女が羨ましい、私もその立場になりたい。
いいや、それは望んではいけない。
同門の仲間だってこんな生活をしているのだ。
買い主に本妻が居ようと関係無くセックスして憂さ晴らしだったり気分転換だったり主の下半身のお世話をしている。
買い主と結婚する者もあるが私の場合は愛人で居ることが契約時の要望なのだからそれは破れない。
「……」
恋心だなんて人形が分相応な夢を見た…
「ふえ…」
何年ぶりだろうか悲しみでぶわと涙が溢れる。
人間関係において喜怒哀楽以外の感情を持たなかった私に愛しさと切なさを感じさせてくれた、和臣さんに非道いことを言ってしまった。
軽蔑され一世一代のプロポーズも撤回され、心の拠り所となっていた存在を自分の手で失ってしまった。
「ふゥっ…ひぐッ…」
親に叩かれたって張り型で膣を突かれた時だってこんな無様に泣きはしなかった。
こんなに喪失感を得るなんて人生で初めてのことだ。
もう終わりだ、彼に提案はしたものの他の人と結婚した和臣さんの側で働くくらいなら風俗に幽閉された方がマシだ。
伸夫先生に退職願を出して荷物をまとめてひぃ様の所へ帰ろう。
そして借金を負って身の振り方を全てひぃ様に任せよう。
心があると悪いことは出来ないものだ、自分よりも相手の幸せを願うなんて、私はどうやら人形から人間になれたらしい。
もっとも私は自分の保身のために和臣さんを丸め込もうとしたのだから心無き行いだったな、部屋に戻ったら黙って着替えてチェックアウトしよう。
去り際にひと言伝えるとすれば「愛してましたわ」かな、でもそうしたらまた燃え上がってしまうだろうか。
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