43 / 85
8章…無かったことに
43
しおりを挟む唇を噛んで
「すみません…あの、私もここまで明かしてしまったので後には退けません。お見合いをして、お嫁さんを決めて、私もお側に置くと約束して下さいませんか?」
と告げれば和臣さんは手を緩めて私を睨む。
「…妻がいて、君とそんなことできる訳無いだろう!」
「そういう、誠実なところが…好き、なんですわ」
「なに?」
「いいえ……真面目な和臣さまにお願いです。この企てが失敗したとなれば私は『返品』となり、ご隠居さまが支払った金額分をそのまま借金として背負うことになります。飼い殺しの風俗嬢か…もしくは臓器を売るなどして落とし前をつけねばなりません」
具体的な金額は聞いていないが一般的な会社員の生涯年収くらいらしい。
一般的な勤め人の私なら返済はその通り一生かかるだろう。
しかして体を売れば今の仕事よりも身入りは多くなる、まぁ解放される頃には幾つになっているか分からないし実質終身刑みたいなものだ。
これらの悪事を然るべき機関に訴えれば我が身は助かるかもしれない、けれど私たちは『ひぃ様の言うことは絶対』と言い付けられそれを当たり前に育っている。
私は他の子ほど養母に心酔はしていなかったし冷めている方だけど、育ててもらった恩があるし仇では返せない。
そして全てが詳らかになり和臣さんや伸夫先生が路頭に迷うなんてことになれば私は自身が酷い目に遭うよりも辛い思いをするかもしれない。
私は今の仕事が好きだし先生にもお世話になっている。
全部投げ出して自分だけ助かるなんてことが憚られるほどに私は彼らに関わり過ぎてしまった。
それにご隠居の名誉を失墜させればワイドショーの格好の餌食だろう、そうなれば私は甕倉市どころか日本に居られなくなる。
食い扶持と面子を潰されてひぃ様もただではおかないだろう、バックの恐い人たちに追われて私は堕ちるところへ堕ちるのだ。
「は?」
「お願いします…秘書として仕事は致します、体の関係は断って頂いても構いません、どうか、議員になることだけは、諦めず達成して下さいませ!」
「……君は…ヤクザに脅されでもしてるのか?」
「それと同義だと思って頂いて構いません。養母のバック…というかファミリーは反社会的組織です。うちの両親はその系列から金を借りて、私を残して逃げたんですわ。私は言わば借金のカタ、商品としてお釣りがくるぐらいの額で売られた訳です…そういった意味でも、私と縁続きになるのは得策ではありません。公務員として働けなくなりますわ……とにかく結婚されて、私とも繋がっている風に傍に置いて下さるだけでも、それでも契約を果たしたことになりますから」
「それに何の意味があるんだ」
「意味なんて…ご隠居さまの時代錯誤な作戦に正論をぶつけないで下さいませ!男なら据え膳を美味しく頂くのが当たり前と考えておいでなんですから…意味なんて…」
私だってもうあの老いぼれの望みを叶えてやろうなんて思っちゃいない。
女を売り物にするひぃ様だって恩はあれど悪人だということは重々承知している。
だから流れに任せて従っていたのだ、自分の意志で決めることを放棄していた時期があったから皆と同じように洗脳されていた。
社会に出て自由を知り、和臣さんと交際して心を得て、あと少しという所まで来たのだからもう戻れない。
今さら逃げたところで今に勝る幸福など無いし、養母に奪われた処女も返って来ない。
夜な夜な男の悦ばせ方を練習したあの光景は一生付き纏うし、後から後から嫌な思い出が浮かび上がる。
不自由無い暮らしだったが異常だった、あの鍛錬さえも良い事だと変換して皆過ごしていた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる