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8章…無かったことに
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しおりを挟む唇を噛んで
「すみません…あの、私もここまで明かしてしまったので後には退けません。お見合いをして、お嫁さんを決めて、私もお側に置くと約束して下さいませんか?」
と告げれば和臣さんは手を緩めて私を睨む。
「…妻がいて、君とそんなことできる訳無いだろう!」
「そういう、誠実なところが…好き、なんですわ」
「なに?」
「いいえ……真面目な和臣さまにお願いです。この企てが失敗したとなれば私は『返品』となり、ご隠居さまが支払った金額分をそのまま借金として背負うことになります。飼い殺しの風俗嬢か…もしくは臓器を売るなどして落とし前をつけねばなりません」
具体的な金額は聞いていないが一般的な会社員の生涯年収くらいらしい。
一般的な勤め人の私なら返済はその通り一生かかるだろう。
しかして体を売れば今の仕事よりも身入りは多くなる、まぁ解放される頃には幾つになっているか分からないし実質終身刑みたいなものだ。
これらの悪事を然るべき機関に訴えれば我が身は助かるかもしれない、けれど私たちは『ひぃ様の言うことは絶対』と言い付けられそれを当たり前に育っている。
私は他の子ほど養母に心酔はしていなかったし冷めている方だけど、育ててもらった恩があるし仇では返せない。
そして全てが詳らかになり和臣さんや伸夫先生が路頭に迷うなんてことになれば私は自身が酷い目に遭うよりも辛い思いをするかもしれない。
私は今の仕事が好きだし先生にもお世話になっている。
全部投げ出して自分だけ助かるなんてことが憚られるほどに私は彼らに関わり過ぎてしまった。
それにご隠居の名誉を失墜させればワイドショーの格好の餌食だろう、そうなれば私は甕倉市どころか日本に居られなくなる。
食い扶持と面子を潰されてひぃ様もただではおかないだろう、バックの恐い人たちに追われて私は堕ちるところへ堕ちるのだ。
「は?」
「お願いします…秘書として仕事は致します、体の関係は断って頂いても構いません、どうか、議員になることだけは、諦めず達成して下さいませ!」
「……君は…ヤクザに脅されでもしてるのか?」
「それと同義だと思って頂いて構いません。養母のバック…というかファミリーは反社会的組織です。うちの両親はその系列から金を借りて、私を残して逃げたんですわ。私は言わば借金のカタ、商品としてお釣りがくるぐらいの額で売られた訳です…そういった意味でも、私と縁続きになるのは得策ではありません。公務員として働けなくなりますわ……とにかく結婚されて、私とも繋がっている風に傍に置いて下さるだけでも、それでも契約を果たしたことになりますから」
「それに何の意味があるんだ」
「意味なんて…ご隠居さまの時代錯誤な作戦に正論をぶつけないで下さいませ!男なら据え膳を美味しく頂くのが当たり前と考えておいでなんですから…意味なんて…」
私だってもうあの老いぼれの望みを叶えてやろうなんて思っちゃいない。
女を売り物にするひぃ様だって恩はあれど悪人だということは重々承知している。
だから流れに任せて従っていたのだ、自分の意志で決めることを放棄していた時期があったから皆と同じように洗脳されていた。
社会に出て自由を知り、和臣さんと交際して心を得て、あと少しという所まで来たのだからもう戻れない。
今さら逃げたところで今に勝る幸福など無いし、養母に奪われた処女も返って来ない。
夜な夜な男の悦ばせ方を練習したあの光景は一生付き纏うし、後から後から嫌な思い出が浮かび上がる。
不自由無い暮らしだったが異常だった、あの鍛錬さえも良い事だと変換して皆過ごしていた。
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