恋を知らないセクレタリー・ドール…心が無くても雇っていただけますか？

４章…お慕いしております

18

「（まだトイレかな…食中毒じゃなければ良いけど）」

トイレの前の雑誌コーナーに陣取って、和臣さんに見つけられ易いよう適当な女性誌を手に取り付録の説明を読み込む。

　恥ずかしいだろうから声を掛けやすいようにすぐ気付いてあげなければ、かつ待ち構えていたような彼のプライドを傷付けるようなことはあってはならない。


　数分すると水栓の開く音がして勢いある流水音が聞こえた。

　奥の個室の扉が開き次は手洗い場の水の音が響く。

　元気まで搾り出したような和臣さんがよろよろと出て来る、

「和臣さん、大丈夫でしょうか」

と静かに寄ると案の定彼は顔を真っ赤にして

「すまない」

と声を震わせた。

「あの、お薬とか出しましょうか？持ち歩いてます」

「いや、もう平気だ……その、何か買い物をして出よう」

「はい…和臣さん、コーヒーなど買って休憩しませんか？」

「あぁ、そうしよう…」


　力無く応える和臣さんの腕を引いてスイーツコーナーへ、彼は極度に甘い物は好まないので事前リサーチで得た好物の『甘さ控えめ・ビターエクレア』を２つ選んでカゴへと入れる。

　そしてレジにて何の迷いも無くホットのハニーカフェオレを２つを注文、支払いまで私が行った。


「……僕、それが好きだって言ったっけ？」

「いいえ、でも昨日伺った際にお台所に飲み干したばかりの同じ物の空き容器がありましたので。奥さまのお手伝いをした時に私が分別して捨てました」

「…参ったな…エクレアは？」

「何となくです。お嫌いでしたか？」

「いや、好物だよ…適度に甘いのは嫌いじゃない…飲み物に関しては甘い方が好きだ」

「ふふ、やりましたわ。名探偵でございましょう？」

「あぁ…敵わないな……ん、ありがとうございます」

　心を掴まれるってどんな気分でしょうか、照れてはにかむ和臣さんはカップを２つ受け取って「あちち」と出口へ向かう。