恋を知らないセクレタリー・ドール…心が無くても雇っていただけますか？

７章…契約の不履行

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「美味しかったですわね」

「あぁ……コホン…聖良、」

「…はい」

食後のデザートも下げられて卓上にはコーヒーカップとワイングラスが残るのみ、改まった表情の和臣さんに「ついに来たか」と口の端を拭いて私も畏かしこまる。

　彼はこれから一世一代の求婚をなさるおつもりなのだ、交際４年だから頃合いだろう。


「聖良…もう、秘書になって何年になる？」

「５年目ですね、まだまだです」

「そうか…うん…君は既に父さんの計画を知っていたね、今もそのつもりで動いているか？」

「はい、もちろんですわ」

　伸夫のぶお先生の計画とはご隠居と違って可愛らしいもの、『息子・和臣が議員になる際の秘書の１人として私・浦船うらふね聖良をあてがい更に伴侶はんりょとして連れ添わせる』ことだ。

　先生は私の性格や態度を見て息子のパートナーに選んで引き合わせて下さったけど、その機会が来なければ私は何らかの用事を作り和臣さんに出逢うアクションを取らねばならなかったので先生の発想には非常に感謝している。

　そして交際するかどうかは当人次第、先生はこれまでも「気に食わなければ僕に気にせず振ってもらって良いから」と温かく見守ってくれている。

　つまりは別れようとも気まずさを抱えることはない、そしてそれによって私が働きづらくなるようなことは無いはずだ。

　フィーリングが合って交際・セックス、これは概おおむね叶えられたのだが結婚までするつもりは無いのだ。

　つまりはこの後されるであろうプロポーズを私は無碍むげに断らねばならない。


「そうか、うん……聖良、出馬を前に…僕と、結婚してくれないか」

「……」

「僕も来年30だ、頃合いかと思う…そして当選したら僕の秘書として神奈川に帰って来て欲しい。父さんにもそう話してる」

「あー…そう、ですの…」

そちらの手回しは既にされていたか、道理で仕事内容が急に変わったと思った。

　中堅扱いして頂けてるものかと勘違いしていた自分が恥ずかしい。

　あれは少しでも多くの業務を経験させようという先生と先輩方の気遣いでしたのね、ありがたいけれどこちらにも都合がある。


「…返事は？」

「…えっと…もう少し、待って頂けますか」

「最初に言ってたことを気にしてるのか？結婚しても秘書は続ければ良い、夫婦二人三脚でなんてむしろ理想だ」

「いえ、んー…」