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2章…気の合う相手
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しおりを挟むご挨拶をして談笑しつつ待つこと数分。
先生がそわそわし出した時にやっと玄関扉が砂を噛む音がして足音がゆっくり仏間へと近付いて来る。
「(…和臣さんだ…)」
「…父さん?帰って来たのか……っ…と失礼、」
「お帰りなさいませ、お邪魔しております」
「え、あ、こんにちは…」
運動でもして来られたのか通気性の良さげなスポーツウェアのその方は先生よりは奥さま似、黒々した短髪の前髪を片側に寄せた今風のヘアスタイルをしている。
その髪の下にはぴんと先の尖った眉毛と奥二重の目…のっぺりしているけど眉との距離が近いためか彫りが深く見える。
通った鼻筋にがっちりした顎、正統派日本男児というか好青年というかとにかく爽やかさが迸っていた。
「あぁ、しばらくぶりだな。和臣、こちら私の秘書の浦船聖良さんだ。浦船さん、息子の和臣だ。今は県庁に勤めているがゆくゆくは県政、そして国政に出て行くつもりだ」
「と、父さん、まだ決まってないよ」
「いやいや、目指して勉強してるのは知っているさ。ほら座りなさい、母さん、お茶を」
「……」
首に掛けたタオルで汗を拭っては渋い顔をする、この様子だと将来のプランを口外して欲しくなかったようだ。
「初めまして、浦船と申します。今後ともよろしくお願い致します」
「あ、はい。どうも…」
「何かスポーツとかされるんですか?」
「いや、走り込みをしただけです。これといって趣味も無いもので」
嘘、趣味はプロ野球観戦でしょう?そのタオルだって地元球団・ヨコハマシーサイドドリームスのホーム球場でしか買えない限定品のはずだ。
女だから話が合わないと思っているのかしら、
「そのタオル、ヨコハマのですよね?私もファンなんです」
とにっこり笑ってやれば和臣さんはキョトンとした後に
「誰のファン?」
と目を輝かせた。
「クリタ投手は入団から長く応援してます。怪我の影響もあって昨年は寂しかったですが…今季は活躍されてて嬉しいです」
「あ、そうなんですか。僕もドラフト会議の時から気になってましたね」
「和臣さんはどなたがご贔屓ですか?」
「僕はサワタリ選手かな…ご存知ですか?」
「もちろん、背番号は38番ですわね。あのバッティングフォーム、好きなんです。しばらく戦列を離れていらっしゃいますけどそろそろどうなんでしょうか」
「2軍の試合でこの前…」
「コホン」
話が盛り上がり和臣さんが正座の足を崩すと、伸夫先生はわざとらしく咳払いをして双方をチラチラと見遣り
「あとは二人で、話したらどうだね」
と奥さまを連れて席を外された。
もう先生ったら分かりやす過ぎ、これでは警戒されてしまうかも…と思ったが和臣さんはポリポリ頭を掻いてお茶を一気、野球話の続きをし始める。
相槌はにこやかに、そして適度に、驚きは満面で、悲しみは神妙に、話を弾ませるのは得意なので思う存分喋っていただいた。
ちなみに私はヨコハマのファンでも何でもなく…和臣さんと話を合わせるために猛勉強したに過ぎない。
漫画・アニメ・アイドル・ドラマ…もう数年も前から、彼が何かにハマる度に話を共有できるようリサーチは重ねてきた。
彼がここまで長く応援しているのはヨコハマだけ、私の学習歴も8年ほどにはなる。
少年のように無邪気に楽しそうに好きな事を話す和臣さんは可愛らしい、5歳歳上だけどそれを感じさせないくらい気さくで近寄りやすい。
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