馬鹿でミーハーな女の添い寝フレンドになってしまった俺の話。

茜琉ぴーたん

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55(最終話)

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 それから数ヶ月後。
「あーもう…あー…あー…」
「直樹、うるさいよ」
「誰のせいで…いや、もっとじっくり…プロポーズとかも考えたかったんだよ、くそっ」
 この日、休みの二人は一番近い役場へと足を運び、受付番号を発券してもらい長椅子に並んで掛けていた。
「こっちだって色々準備してたんだぞ……3ヶ月分貯めて…結納だって本来するべきなんだろ?」
「ステレオタイプにこだわるのね、じゃあ延期したっていいんだよ?別に記念日とかどうだっていいしぃ」
「…今日が…ハルカの誕生日なんだから…ちょうど良いだろうが……それにもうするって周りに言っちまったんだ、しなきゃ俺がヘタレ扱いじゃねぇか!」
 二人がはっきり交際を始めてから数日後、遥が職場で長岡のことを名前で呼び、ごく私的な事を話してしまったために二人の交際は早いうちに知れ渡った。
 元々仲が良いのは周知の事実だったが、弁当の具材が似通っていることや醸す空気から何となく同僚たちも勘付き始め、遥のミスでそれは決定的となった。

 それからというもの「まだ結婚しないのか」「もう籍は入れてるの?」などとお節介な周囲からせっつかれたために、面倒がった長岡は予定より早く結婚へ踏み切ることとなったのだ。
「…ちゃんと実印までしといて逃げ腰とか超ヘタレじゃん…あ、直樹、番号呼ばれたよ」
「…お前行って来いよ」
「えー、一緒に行こう、…すみません、これ婚姻届、お願いしまーす♡」



「……」
「……」
 帰りの車内は良い意味でしっとりと静まりかえっていて、いまだあのワンルームを住処とする二人は胸に小さな炎を、そして遥は膝の上に小さな紙袋をたずさえて家路を急ぐ。
 大きな車を駐車スペースへ収めてエレベーター無しの3階まで階段で上がり住み慣れた部屋へ。
 ずんずん先を歩く長岡は座布団を敷いた定位置へ座ると、遥を呼び寄せた。
「ハルカ、こっち来いよ……袋貸して………手ぇ、出して」
「なに?」
「分かってんだろ……違う、左手だ、馬鹿」
「…もう怒らないで…はい、」
 形式にこだわるだけでムードはそっちのけの男に苛つくこともしばしば、しかし照れながらも通過儀礼だとばかりに律儀にイベントを消化してくれるその誠意に彼女は信頼を寄せているし可愛げを感じて仕方ない。
「……キレイだな」
「ん……このデザインにして良かったね、キレイ…今日記念日に間に合って良かったね……直樹のは?はめてあげる」
「これ………ありがとう」
「うん」
 役場の前に立ち寄った宝飾店で受け取ったのは完成した二人の結婚指輪で、店頭でサイズ確認をしてから一旦箱に入れて持って帰っていたのだ。
 大仕事を終えた長岡はふぅと息をき、ベッドへ頭を乗せて天井を見遣った。トントン拍子で流れるように決まった結婚、家も仕事も変わらないというのに責任感と使命感がずんずんと大きく膨らんでは心を圧迫する。
「……式場とかは…また見学に行こうな…」
「うん、式したらさ、またその時改めて指輪交換するんだよね、なんかおっかしいの、」
「形式的なもんだからな…しなくてもいい……うん…ハルカ、何も生活は変わらねぇけど…仲良くしていこうぜ」

 成り行きまかせの人生だって悪くない。
 ここからまずい方に転がったところで覚悟はできているしまた独りに戻るだけ…決して口外しない僅かばかりの保険を残しつつ、男は遥を抱き寄せた。
「うん♡……ねぇ、直樹♡」
「…なんだよ」
「おちんちん、したい♡」
「嫌だよ、」

 長岡はむぅと口を尖らせる新妻の肩から腕を離してその脚を持ち上げて、
「俺が抱くんだ」
と彼女をベッドへ投げ置き覆い被さる。

「きゃん」
「…今日から長岡遥だな、」
「うん…よろしくね」

 組み合った二対の手の先にはひと月分の給与相当の指輪がそれぞれに輝く。
 長岡夫妻は幸福そうにそれを見つめては所有と従属を感じ…夕飯時まで蜜月らしく愛し合った。



おしまい
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