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しおりを挟む「はぁ…え、殴られでもしたの?」
「そこまでじゃない…おでこ、腕を振り解かれた時に…爪が当たって…傷になっちゃった」
そう言って前髪を触り、遥は無表情で手を膝へ下ろす。
「それはもう警察に言えよ…」
「いいよ…馬鹿な女が騙されただけだもん…」
青信号が続き車はすんなりと二人の職場へと到着し、長岡は駐車場に残っている遥の軽自動車の隣に着けてレバーをパーキングに入れた。
「ふー…ちなみに、その名刺は?持ってんだろ」
「これ…」
長岡はパチンと室内灯を点けて、くしゃくしゃになった名刺のありがちな男性の姓名と中堅企業の名前と役職名を確認する。
「ほー………ケルホイの時と同じじゃねぇか、お家プリントの名刺キット、ジョークの文言も一緒、見てすぐ分かったろ!」
「分かったけど、」
「……お前さぁ、その話し合いってまさか…」
「………ホテルじゃない。…車の中」
「…シたの?まさか」
セックスという名の話し合いか、まさかそこまで馬鹿ではあるまいと男は室内灯を消し、更なる不幸を心の底では期待してニヤついた。
「シてない。脱がされそうになったから揉み合いになって…それでこう、おでこ」
「もうさすがに信じられなかっただろ?」
「うん…吹っ切れた」
馬鹿とはいえ非同意の暴行や強姦は可哀想…一応の顛末を聞き取った長岡はふぅとゆっくり息を吐き、
「そりゃあ収穫じゃねぇの。疑う心を持ったんだ、偉いわ…ほい、降りろ」
と遥の肩を押す。
すると彼女は柳のようにぐらりと倒れるだけで頭を窓ガラスに当てて、押された肩を上下させてホロホロと涙を流し始めた。
「ふぇ……もー…やだ、さいあく、さいあく、直樹、呑も、直樹の部屋、連れてって、」
「嫌だよ」
「なんでよぉ、こんなに傷付いて泣いてんのよ、慰めてよ…添い寝して、お願い…」
人肌恋しい、慰めてほしい、周りの女友達にはこんなみっともない話は相談できないし大概呆れられている。
清純なふりをしてその実尻軽、ピュアと言えないほど体は穢れているのに簡単に男を信じてしまう。
「まだボロクソ言われてぇの?」
「いいよ、ハッキリ言って、じゃないと目が覚めない、」
「はぁ、これまでも結構言ってるけどね。車はどうする?このまま乗ってくか?」
「乗せてって…運転、できない…」
暗い車内で外灯の光が瞳と涙に映って光り、ぱたぱたと膝を打つ音が聴こえた。
「ったく……可哀想な奴だな、」
長岡はレバーをドライブに戻して国道へ出る。
「お酒、ある?」
「あるよ、新しいコーラもあるわ」
「あれ、やだぁ……ふぅ…ゔ~…」
「泣け泣け、そこのスーパーでメシ買おうぜ、んで呑んで吐いて寝て忘れろよ」
「ゔん……わずれるっ…」
二人は翌日分の食材と酒を買い込み、長岡のアパートへと帰った。
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