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しおりを挟む発端は昨夜、仕事終わりに遥が長岡を待ち伏せしたことに始まる。
「直樹、今夜ヒマ?行っていい?」
「いや…用事があんだわ…」
「そっか……デート?」
「彼女いねぇっつってんだろ…ツレとメシだよ。……なに、また悩んでんの?」
彼は珍しく作業着から私服に着替えて、上着の襟をぱたぱたと叩いては怠そうに遥を見下ろした。
「そんなんじゃないけど…添い寝したいなーって思って」
「はぁ、街に出てナンパでもされて来いよ」
「そんな軽い人嫌だ」
「詐欺師とエッチしたくせに何言ってんの」
長岡はフンと鼻で笑って運転席のドアを開ける。
「次の合コンはもうセッティングしてあるの、だからそれまでは新しい出会いは無くていいの、」
「俺との添い寝は不貞行為じゃねぇのかよ」
「直樹との添い寝はノーカウント、だって恋じゃないでしょ?」
「…確かにな」
しかし日常生活の一部に異性との添い寝・ボディータッチ・口淫が組み込まれているなら、いっそ感情を伴う浮気の方が純な気がする。
長岡は前髪で隠れた眉間に数本の縦皺を寄せた。
「じゃあ大人しく家に帰るよ」
「……気が変わった。お前さぁ、そこの雑貨屋で大人の玩具買って来いよ」
「は、なんでよ」
「添い寝するにも飽きただろ、遊んでやるよ…それとも持ってる?」
「も、持っ……てなくはないけど、」
まだ数台の車が残る駐車場で、遥は周囲を警戒しながら小声になる。
「何?バイブ?」
「…結婚式の二次会でもらった…あの…ローター?開けてないけど…」
「いかがわしい二次会してんなよ…ふん、明日だったら泊まらせてやるからよ、それ持って仕事終わりにここ集合な」
長岡は割と楽しそうに、そう言って自身の車へ乗り込んでエンジンをかけた。
何を隠そう彼がこれから向かうのは行きつけの風俗店で、この後に待ち受ける嬢との逢瀬に分かりやすく高揚してしているのだ。
浮き足立ったところを遥かに絡まれて最初こそ機嫌が悪かったが、自分との添い寝を求める彼女を見ていると次第にエロティックな気持ちになり…ついあんな提案をしてしまった。
きっと明日になれば賢者タイムのようにさっぱりとした頭で遥を邪険にしてしまうだろう。
しかし今のこの時においては「可愛い奴め」といじらしく感じている。
「分かった…」
「じゃーな、」
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