馬鹿でミーハーな女の添い寝フレンドになってしまった俺の話。

茜琉ぴーたん

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「ゔおえっ……げぇ、」

「呑みすぎだなー…馬鹿だねぇ、」

 あれから2時間ほど経って日付が変わる頃。

 遥は洋式便器を抱いて酒もご飯も昼に食べた弁当も吐き戻していた。

 長岡は隣にしゃがみ込み彼女の背中をさすり、励ますでもなく慰めるでもなく優しく罵倒を繰り返す。

「げほっ……おろろ…」

「汚すなよ、おら、水飲め、コップ、ここ持って、な、」

「ひぐっ…………うぷっ…げぇ…」

「もう出ねぇだろ、な、口拭けよ…あー、散らしてもう…」

「ごべ…ンッ…ひぐッ…」

「もういいだろ、あっち行ってろよ」

家主は遥の体調よりもトイレの汚れ具合を心配し、軽く流して洗剤を回し掛けた。

「ったくよぉ…」

ブラシでこすって掃除シートで床も拭き、埃や髪の毛の類が落ちていないかチェックしてからワンルームの居住部分へと戻る。


 遥は抜け殻のようになってベッドを背にして床に座り込み、近付いてくる長岡へ申し訳なさそうな表情で眼を潤ませた。

「ごめん…」

「…お前さぁ、同僚に吐瀉としゃ物の始末させて恥ずかしくねぇの?」

「みっともないと思ってるよ!でもアンタがっ……呑めって言ったんじゃないっ…」

「お前が呑みてぇって言ったんだろうが」

「憶えてないっ」

「馬鹿が、」

これは実際には長岡の言い分が正しく、呑みたがる遥を一度は止めたが彼女が振り切っておかわりをした、という流れであった。

「バカバカ言わないでよ、バカ!」

「馬鹿に言われたくねぇよ、」

「バカ…ねぇ、直樹、キスして、」

 隣に座った長岡の膝に手を乗せた遥はうるうると口付けをせがむも、

「その口じゃ無理。ゲロ臭せぇ」

といなされて白目を剥く。

「さいあく、女の子がキスしてって頼んでんのよ?有り難くしなさいよ、」

阿婆擦あばずれのキスなんか有り難くねぇわ。臭せぇっつってんだろ、歯ぁ磨いて寝ようぜ」

「臭い臭いって……酷い…」

「磨いたらしてやるよ」

「そう?うん…待って、する…」

 同僚のお情けのキスにどれほどの価値があるのか…ここまで邪険にされてもフラフラと立ち上がり洗面台へ向かう遥を、長岡はもはや不憫に思った。

 そしてまた吐き気を催して汚されては敵わないと長岡も洗面所へ向かい、ふらつく遥の背後で待機しながらキチンと磨けているか監視する。


「ガラガラ……ぺぇっ…」

「散らすな、これ、ティッシュ、」

「案外、几帳面なのねー」

「人に汚されんのは嫌なんだよ」

「…直樹、ん、」

遥は振り返って長岡へ抱き付き、背伸びをして口付けを待った。

 男はキリンのように首から動いて、

「ん、」

と期待に添うようにキスをする。

「は…ん、……ホッとする…」

「こんなんで?…部屋に戻ろうぜ」

「安心する……はァ……ねぇ直樹、」

 腰にしがみ付いてちょこちょこ移動する遥の口から次の提案が飛び出してくる前に、長岡は

「嫌だよ」

と先手を打って却下した。

「まだ何も言ってないじゃない」

「ろくなこと言わねぇだろ」

「おちんちん触りたい」

「ほれ見ろ。この痴女が」

もう充分に奉仕はしてやったはず、長岡は部屋の隅に転がした粘着テープを手に取りピッと引き出す。
 
「だめ?安心するんだもん、じゃあせめて抱き締め、なに、あ、」

 そして遥の両手を脇で挟んで手首をぐるぐると巻いた。


「酷い、これじゃ寝れない、」

「黙れ。俺は寝る…トイレは行けるだろ、汚すなよ」

部屋の明かりを消して長岡はさっさとベッドへ入り、しかし壁際まで寄って彼女のスペースを空けて待つ。

「さいあく、いやぁ、」

「変な声出すなよ……キスはできるだろ」

 暗い部屋にベッドに自分を待ってくれる男、遥はそんなちょっとしたことにも救われるくらいに心が荒んでいた。

 なので飛び込むようにベッドに乗り、

「ん、んっ…届かない、直樹ぃ、」

と芋虫のように這いつくばって冷たい長岡の唇を探る。

「お前、馬鹿だなぁ……おやすみ」

「おやすみ…」


 暗さに目が慣れた頃、いびきをかき始めた長岡の口へ数回キスをして、遥は薄い胸板に顔をぴったり付けて目を閉じた。
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