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しおりを挟むこれは大手自動車用品店チェーン…の店舗ではなく工場側、車検や修理・板金などを請け負う作業場と事務室での話。
平日の昼。
事務の清洲遥は仕事中だというのにとある名刺を眺めてはニヤニヤしていた。
「おい、清洲…仕事しろよ」
「あ、なに、」
持ってきた書類がぺしと頭を掠め、遥は髪の乱れを気にして頭を押さえる。
叩いたのは長岡直樹、ここの整備士である。
「これ板金のお客さんのやつ。連絡待ちに入れといて」
「はぁい、もー、折れてるじゃん…モジャ、書類は大切に扱ってよね」
「それ、誰の名刺?」
遥の小言には耳を貸さず、「モジャ」こと長岡は彼女の手元の見慣れない名刺に目をやった。
「えへ、新しい彼氏♡昨日、証券マンの人と合コンしてね、今夜デートするの♡レストランディナー♪」
「へぇ、やるね。どこの証券?」
「んー、ケルホイ。外資系…知ってる?」
それはヨーロッパを拠点とする証券会社で、日本でも各地に支社が置いてある業界大手である。
「…そら知ってるけど、どこで合コンしたの?」
「駅前のお洒落なとこ。庶民的な居酒屋じゃないよ、」
「いや皇路駅?」
「当たり前じゃん」
「…その人って、ここらへん在住の人?」
長岡は名刺をあらゆる方向から注視し、目を凝らす。
「うん、駅前に支社があるんだって。仕事終わりだったからビシッとスーツでね、カッコいいの♡そこ、住所も書いてあるでしょ」
「まぁ、うん……へぇ………またどうなったか教えてよ」
どうにも含みのある言い方で長岡は笑うが、証券マンの彼女の座を狙う彼女には何も響かなかった。
「どうって…デートの内容なんて教えないよ、ふふっ」
「そうじゃなくてその後、ね…まぁ頑張れよ」
「言われなくてもね!」
そんな話をしたのが3日前だった。
清洲遥は入社して6年目の事務方社員で、良くも悪くも女らしい、キャピキャピとしてミーハーで、流行り物と肩書きに弱く、将来的には玉の輿を狙っている…と自ら豪語する明るく快活な女性である。
背丈は156センチほどでやや小柄。
それなりに発達した胸は本人曰く「美乳」で、自身を美しく見せるためなら積極的に谷間なども強調する服を着たりする。
素顔はさっぱりとしたあどけない作り、だがそれゆえにそこをキャンバスとして化粧を乗せれば流行の顔も自由自在。
眉やアイラインでだいぶん印象の変わる便利な顔立ちだった。
対して長岡直樹も社歴6年目、身長180センチのひょろひょろの痩せ型。
天然パーマのくりくりの頭髪は帽子からはみ出し、伸びる度に「支障が出るから切りに行け」と工場長から叱られるほどに前髪が長い。
もちろん掻き上げて帽子の中に入れたりはするのだが、その帽子も目深に被りすぎるのでつばで目が隠れて同僚たちともなかなか目が合わない。
陰キャと呼ぶほど暗いわけでもないのだがどこかマイペースで人見知りなのも手伝って、客とのやり取りをするよりも作業に没頭したい、それが本音らしい。
しかし一度打ち解ければ心を開くのは早く、工場の同僚をはじめ同期の遥とも冗談を言ったり食事をしたりはする一般的な若者である。
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