壮年賢者のひととき

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
74 / 80
2月・勇者は大切ない

69

しおりを挟む

 翌朝。

「おはよう、ヒナちゃん……ほら、だから言ったじゃない」

「おはようございます…」

新素材のマットレスも陽菜子の寝相は治せなかった、彼女は床へ転がり落ちて嘉島の目を覚まさせた。

「目覚まし時計じゃないんだから…体を大切にしなさいよ」

「無意識なんですもん…痛……健さん、まだ時間あるので、そっち入ってもいいですか?」

「ん、いいよ…おいで」

 大きくて暖かいベッドに陽菜子は入れてもらい、満足げに夫へ頬擦りをしてその身を寄せる。

「ふふ…いいですね、夫婦♡」

「うん…離したくないなァ」

「いずれまた、同じお店で働きましょうね…制服の健さん、好きなんです」

キスをして、見つめ合って、またキスをして、蜜月関係の二人は愛を交わして仕事へのエネルギーを溜め込んだ。

「ん…俺も制服のヒナちゃん好きだよ」

「それ、学生服の方でしょ」

「バレた…ははは」

 これからまだまだやることは山積み、とりあえずは仕事を安定させてから休みを取って挨拶や結婚式や旅行の準備…想像するだけで初老の体には堪える。


「健康には気を付けていきましょうね」

「うん、長生きしたい」

「はい、長生きさせます♡」

 どこからそんな自信が生まれてくるのか、枯れかけていた男を蘇らせたこの子は天使か女神か。

 嘉島は悟りを捨ててガムシャラに陽菜子を愛そうと決めた。


「ヒナちゃんは…チャレンジングというか…思い切りがいいよなァ」

「はい、末っ子ですけど、割となんでもさせてもらえたし…一度きりの人生ですからね、なんでもやってみないと」

「若いのに達観してるんだよなァ…人生2周目とかじゃないよね?ふふっ」

「まだまだ未熟者ですよ、ふふ」


 互いの腰に手をかけて見つめ合い、ずっとこうしていたいと思えるほどに崇高な時間を二人は過ごす。

「…ヒナちゃん、愛してる」

「嬉しいです♡私も愛してます、ずっと好きですよ、ふふ…言ったじゃないですか、『私は離れるつもりはありません』って。付き合い始めた時に。私を幸せにして下さいね♡」

「荷が重いな…ふふ、時間がかかりそうだなァ」


 責任感は男を強くする、大切な一生仕事いっしょうしごとに嘉島は任せろとばかりに微笑んだ。



エピローグへ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...