壮年賢者のひととき

茜琉ぴーたん

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2月・勇者は大切ない

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 その日の夕方。

 嘉島は陽菜子を伴って懐かしい本店に向かい、裏の従業員入り口を慣れた様子で進む。

 まずは守衛所を兼ねた商品管理室に顔を出し、知ったスタッフへ挨拶をした。

「あ、お疲れ様です、新店の応援ぶりですね…あ、まさか」

「うん、結婚の報告……やっぱり知ってた?」

「はい、あの、おめでとうございます、ヒナちゃん、おめでとう」

この部屋の事務の宗近むねちか知佳ちかは八重歯を見せてにこやかに笑い、彼らを祝福する。

「ありがとうございます…へへへ」

「挨拶回りか…頑張って下さい」

「うん、行こう」


 階段で2階の売り場フロアへ、二人はまずカウンターを目指して店長・副店長へと話を通した。


 そして黒物コーナーにて、商品入れ替えをしていたチーフフロア長・守谷と部下の葉山はやまへも声をかける。

「エ、新庄さんと………嘉島副店長、とんでもな…いや、おめでとうやけど……オレより歳の差あるやん…」

「ダブルスコアだね。仕方ないよ、俺が早く生まれ過ぎた」

「はぇ……え、葉山知ってた?」

嘉島の後を継いでチーフに昇格した守谷は目を丸くして驚き、反対に落ち着き放っている葉山に疑問を呈した。

「はい、存じてました。新庄さん、おめでとうございます」

「ふふ、ありがとう♡葉山くんも頑張ってね」

「はい……ふふ……お幸せに、」

先月から同棲を始めたばかりの葉山は意味有り気に笑い、年下の先輩社員へ心からのエールを贈った。


 続いて壁沿いに向かったのは入り口近くの持ち帰り商品用メインレジ。

「あ、嘉島副店長…え?け、結婚⁉︎」

「声が大きいよォ…和田わだ所長…」

「す、すんません…おめでとうございます……いや、羨ましい…」

嘉島とトレードで北店から赴任している法人事業部・所長兼レジフロア長の和田は濃い顔を平らにして愕然となる。


「ヒナちゃん、おめでとう♡ジェネレーションギャップ酷いやろうけど頑張ってな!」

「おめでとう、加齢臭が辛かったら逃げるんだよ、」

「ヒナちゃん苛めたらうちら許さへんよ、」

「そーだそーだ、亭主関白もほどほどにして下さいよ!」

レジ担当の守谷未来みらい吹竹ふきたけ愛花あいかは口々に嘉島へ口撃を仕掛けて彼の心を折りかけた。

「君ら、見てきたようなことを言うねェ…ヒナちゃん?」

「シラナイデス…」

「ふん…また折檻せっかんだなァ…」

和田達に聞かれぬよう小声でそう囁き、その後も各売り場を巡っては手の空いたスタッフへ簡単に挨拶をする。





 バックヤードに戻る最後の通過地点、白物家電コーナーにて二人は定時退勤間際の刈田かりた美月みつきに会う。

「あら、おめでとう♡良かったわね、ヒナちゃん…末長くお幸せにね♡」

「はい、ミツキちゃんも。ふふ♡」

「チーフ…じゃない副店長、ヒナちゃんを大切にしてあげてね?泣かせたら女子総出でやっちゃうわよ?」

 女王・美月はサラリと物騒なことを吐き、

「刈田さんは敵にしたくねェな…女子会は厄介だね」

と嘉島に塩っぱい顔をさせた。
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