壮年賢者のひととき

茜琉ぴーたん

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1月・勇者はあられもない

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 マンションの部屋へ着くと買い物袋をキッチンマットの上へ一旦置き、陽菜子が冷蔵ものと常温ものとすぐ使うものに仕分けをする。

「ありがとう、奥さん、」

「まだですぅー……ふふっ」


 先に部屋着に着替えてきた嘉島はキッチンの陽菜子へ這い寄ってカーディガンを脱がし、ワイシャツのボタンも2つ3つと外して谷間を露わにさせた。

 そしてどうせだからと、チノパンも脱がす。



「エプロン持ってないから…裸ワイシャツな、ご飯よろしく」

「むぅ…変なことばっかり思い付くんだから…」

 その趣味は疑うが否定も拒否もしない陽菜子、胸をぷるんと震わせながらキッチンをちょこまかと動き回る。

 切り干し大根を一袋水に沈めて火にかけ、切った人参をその鍋に投入。

 沸く間に玉ねぎと鳥もも肉を切って深型のフライパンへ落とす…最後に豚ロース切り落としを細く刻んで干し大根の鍋へ投入、まな板と包丁を食洗機へ片付けた。

「もったいないですけど、鶏の皮は脂っぽいので剥がします…」

 今夜は陽菜子お手製の親子丼、付け合わせは干し大根の煮物といったところか。

「……ふは♡」

 普段から自炊しているだけあって手際が良いし包丁の扱いも手慣れている。

 開襟したシャツから覗く白い胸とペンダントもいやらしくてそそる。

「健一さん、飲み物はどうしましょう?」

 鍋に調味料を入れ蓋をして火力を抑え、振り向いた陽菜子に追いついて揺れる胸を見れば、嘉島の禁酒の決意がグラグラと崩れた。

「あー、久々に日本酒呑もうかなァ…」

「かしこまりました♡おかんにします?冷や?」

「珍しい言葉知ってるね…常温でいいよ…カウンターの瓶ね」

酔えばうっかり彼女を襲ってしまうかも、しかし今夜のたおやかな陽菜子をアテに呑む酒は絶品だろう。

 嘉島はムフムフと手で口元を隠して笑う。

「はぁい…父親が日本酒好きなんです。言葉だけは早くから覚えてて…呑み方は勉強中です」

「そうか…話が合いそうで助かるよ…」

「先に出しましょうか?イカ明太買ってましたよね」

陽菜子は食器棚から以前彼が使っていた切子グラスを見つけてダイニングテーブルへ置き、冷蔵庫に収めたイカ明太のパックを1つ外して開封した。

「パックのままでいいよ、洗い物増えるだろ…」

「いえ、こういうのは雰囲気ですよ、『居酒屋・しんじょう』って店名でどうでしょう」

食器棚から小皿を出してイカ明太を盛り付け、陽菜子はパックに残った一筋のイカをつまみ食いしてその辛さに目を丸くする。

「至れり尽くせりだなァ…ヒナちゃん、いい女将さんだね」

「親子丼セット、女将のお酌付きですね」

「幾らだ、言い値で払うわ…ははは」

 まだ素面しらふなのにすっかり上機嫌、嘉島はダイニングへ移動してグラスを陽菜子へ掲げて嬉しそうに笑った。
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