壮年賢者のひととき

茜琉ぴーたん

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1月・勇者はあられもない

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 その数日後。

 ムラタでは半期に1回、有給を強制的に消化させるべく3連休ないし4連休を取得しなければならないのだが、まだ今期行使していなかった嘉島にもそのチャンスが巡ってきていた。

 ちょうど陽菜子ひなこの特別連休予定に合わせて取得、我ながら上手いことやったもんだと嘉島はほくそ笑む。

 というのも、同じ部署から特別連休取得者を同時期に被らせることができないため、本店に居ては陽菜子と揃って連休取得が出来ないのだ。

 つまり離れ離れの、この転勤中しか行使できないプランだった。


「ヒナちゃん、もう来てたんだ!来週休み取れたよ!どこ行こうか」

セールを乗り切ってハイな嘉島は、マンションの駐車場に入るなり平面駐車場の陽菜子の車へ寄せて窓を開け叫ぶ。

「わ……お、お疲れ様です、やりましたね、どうしましょう…会議しましょうね」

「あー嬉しい…ヒナちゃん♡」

「お外ですよ、デレデレですね…」

セール期間中は忙殺されて連絡もマメに取れずにいたが、週末を終えて久々のお泊まりに心が体がはやって仕方ない。

 陽菜子もそれは分かっていたので敢えて連絡を控えたし、本店に居るときとは明らかに変わった嘉島の顔つきが気になり少し距離を置いていた。

「ヒナちゃん、晩メシ…何にする?外で食べようか、出前でも取る?」

 しかし今こうして久々の逢瀬にはしゃぐ男は少年の様で…それは言い過ぎだが、年齢よりももっと若い精神に戻っているようである。

「何かお惣菜でも買いましょう、私も今日は疲れちゃって…明日の分の食料も要りますし、スーパーに、健一けんいちさんの車で行きましょうか」

 明日は共に休日、夜まで家で過ごすために買い出しへ…ヒナコは車を降り、この先でUターンしてくる嘉島の車を待った。

 陽菜子は嘉島の車に乗り込み、ふと後ろを振り返ると後部座席がフラットにならされているのに気付いた。

「わ、すごい。ベッドみたいですね…」

「うん?あァ、この前帰りに星を観に行って、そのままにしてた」

嘉島は星が好きで、ちょいちょい観に出掛けている。

 なので毛布も防寒着も積んでいるし、流星群が到来した際には車中泊上等で隣県にでも繰り出すのだ。

 リビングのテレビ横に天球儀が置いてあるのはそういう訳である。

「お忙しいのに…わざわざ?」

「イライラしてね…時間決めて山の方に上がってみたんだよ」

「へぇ…これ、後で乗ってみても大丈夫ですか?」

「いいけど、固いよ?よし、出すよォ」
 
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