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12月・勇者は頑是ない
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しおりを挟むその日の夜。
早番の陽菜子は夕食の材料を持って嘉島宅を訪ねた。
と言ってもまだ家主が仕事中のため、北店に寄って働く彼の姿を覗き見て遊ぶことにした。
本店と比べれば床面積は半分くらいか、しかし新しめの店舗なので照明はLEDだし機材も綺麗で全体的に整っている。
きっと売り場にいるだろう、ならば元々担当していた黒物だろうか。
陽菜子は店の奥のテレビコーナーを商品棚に隠れながらひっそり目指す。
「あ♡」
うっとりと目にハートを浮かべるその目線の先には、「嘉島副店長、」と呼ばれ振り向く凛々しい恋人が居た。
歳が歳だから疲れも溜まりやすいだろう。
しかし持ち前の華のある立ち姿と気品、聞き返す時に眉間を上げるものだから困ってないのに困り眉になる顔。
口元だけ少し動かす笑い方、全てにおいて陽菜子には垂涎物だった。
普段の本店の勤務中だってじっくり見ていたいのにそれができない、明らかに不審な動きで嘉島を追いかける。
「ぷふっ!」
妄想が捗りすぎて吹き出してしまった、陽菜子は周囲をチラチラ確認しながら駐車場へ戻って行った。
2人の出会いは6年前、陽菜子がレジのアルバイトで本店に入ったのが最初だった。
その頃嘉島は転勤してきたばかりで、陽菜子は高校の寮生活に退屈し土日を利用してお小遣いを稼ごうと思ったらしい。
嘉島は黒物フロア長兼チーフフロア長なので売り場もメインレジから遠く、バイトの陽菜子と接点は全くと言っていいほど無かった。
しかし壁沿いの通路の80メートルほど先の突き当たり、壁面のテレビの下で仁王立ち…ではないが堂々と立っている嘉島の姿を陽菜子は常々視界に収めて印象を深めていく。
客から黒物売り場を尋ねられれば「あちら真っ直ぐのあの男性が立っているところがそうです」と嘉島をランドマークにすることも多かった。
最初の印象はそれ、『遠い売り場で立ってる人』だった。
1年ほど経った頃に嘉島の担当がレジ部門フロア長兼チーフフロア長になり、そこでやっと接点が生まれる。
陽菜子は学生アルバイトなので多くても週に3回ほどだ。
それでもちゃんと「新庄さん」と名前を覚えて指示出しをしてくれる、悪質なクレーム客にも毅然とした態度で臨む姿勢、陽菜子は次第に嘉島を特別視するようになった。
それは未来の嘉島本人の言葉を借りれば
『君は仕事での俺しか知らないだろ?素がどんな性格だろうと、接客業だから猫被ってカッコいいフリするんだよ。部下がいれば頼れる所見せるし、優しくするよ。店での嘉島は、幻みたいなもんだよ』
と、まさにそういうことなのだが、若い陽菜子が年上の男に憧れを抱くには理由としてはそれで充分だった。
もう少し一緒に働いてみたい…陽菜子は翌年の秋に本店にて高卒新卒採用の入社面接を受ける。
専門・大卒組は本部の人事部が県庁所在地のビルで既に行なっていて、高卒者募集は補充分と地元採用者を増やすための取り組みであった。
その日は副店長が不在だったためその席に嘉島が入り、そのおかげか陽菜子は落ち着いて臨むことができ無事採用に至ったのだ。
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