壮年賢者のひととき

茜琉ぴーたん

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11月・勇者はしどけない

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 18時過ぎ。

 夕方のピークも終わり嘉島は一応起こったことの顛末を報告しなければいけないので、閉校後のパソコン教室へ陽菜子を呼び出した。

 嘉島はこっそり内側から施錠して、しばし二人きりの時間を楽しもうと試みる。


「で、カウンターの役割………聞いてます?チーフ、」

「うん、ごめん、聞いてる」

並んで座って聞き取りをしながらも、緊張から解放された嘉島はなんだか浮ついている。

 自分は悪くないと分かっていても、警察という存在と一緒にいるのはひどく労力を要したのだ。

 そして疲れ摩羅まらとでも言うべきかジワジワと高揚し、目の前の陽菜子に構いたくて…抱きたくてしょうがない。


「仕事中ですよ」

「うん、いやァ…強烈な方だったねェ、ネジが数本飛んでそうな…まァ、ヒナちゃんが可愛いから妬まれたのかなァ」

 二人の約束でタイムカードを押すまでは仕事とプライベートはきっちり分けるよう習慣化しているのに、嘉島は前屈みになり陽菜子を名呼びした。

「なに言っ…チーフ、仕事中なのに名前で呼ばな…ちょっと」

 さらに密室で二人きりなのを良いことに、陽菜子の美味しそうな唇を職務中に奪ってしまおうと顔を近付ける…も、逃げられる。

「外に皆さんが居るんですよ?もうっ」

教室の壁はただの薄いパネル、すぐそこはシュレッダーや簡易金庫が並ぶ売り場である。

「BGMで聞こえやしないよ、ヒナちゃんっ…ン…はァ、今夜、ダメか?ちゃんと抱きたい…」

「明日早番なのでダメです♡」

「はァ…ならやっぱり来月か、忙しい…あー、ヒナちゃん、やべェ、職場でとか超燃える…」

嘉島は慣れた動きで鼻先を陽菜子の首筋へ当て、スンスンと甘い匂いを嗅ぎ回った。

「…満足しました?馬鹿なこと言ってないで、報告書完成させて下さいよ」

「……はい」

 陽菜子は仕事中は案外ドライだった。

 嘉島の額をペチンと叩き聞き取りを続け、時間はかかったが内容は全て伝えて教室を後にする。





 独りパソコン教室に残された嘉島は大体のまとめを作り、フゥと息を吐いて扉を開けた。

 すると隣接する法人事業部カウンターには、月末から産前休暇に入る所長の清里きよさとじゅんが待ち構えていた。

「チーフ、災難でしたね」

「あァ、まァ…」

「事故みたいなもんですよ、たまにいる過激派…………すみません、私のせいで忙しいのに」

「いや、謝るなよ。どっちにしてもゆくゆくはこうなってたかもしれないんだし…まァ忙しいよ」

「ふふ、ヒナちゃんとうまくやって下さいね、ユイから聞いたんです。年の差、エグいですね」

「……言うねェ…、所長。まァ…うまくやるよ。……所長も、しっかり頑張って来てね、また一緒に働こう」

「はい、ふふ♡」



 さて、嘉島はまだお預けされたたかぶりを僅かに残しているというのに、配送カウンターでは陽菜子はもう切り替えて修理対応に入っていた。

 年齢など関係無い、彼女はとてもしっかりしている女性だ。

 それに引き換え自分は…、嘉島は強制賢者タイムの自己嫌悪に打ちのめされながら、黒物コーナーへ出向いて葉山へ聞き取りのお誘いをかける。
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