壮年賢者のひととき

茜琉ぴーたん

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11月・勇者はしどけない

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「うまい…」

「あぁ、美味いな…」

炊き上がった鍋を囲み、嘉島と唯の酒が進む。

「ミツキちゃんは呑まないでいいんですか?」

自分と同じくお茶を嗜む美月へ、陽菜子は尋ねた。

「あたしは部屋に戻ってからユイちゃんと飲み直すの。…彼氏以外の男の人の前では、酔ったとこ見せたくないの♡」

「わぁ、おとな~」

実際には酔って饒舌じょうぜつになり要らぬことを喋ってしまうからなのだが、陽菜子は美月を自制の利く大人として尊敬する。

 何となく場は家族や恋愛の話の流れになり、ここで唯は陽菜子へ、葉山と交際していることを初めて明かした。

「エっ⁉︎ユイちゃんと葉山くんが…⁉︎知らなかった…」

「しやで、京都の時からの仲でな…腐れ縁や」

「あたしも、最近知ったの」

「この笠置さんが葉山くんに飼い慣らされてる感じが、俺は新鮮で面白いよ」

口ごもる唯が物珍しくて、美月も嘉島もニタニタと好奇の目で見つめる。

「……」

「じゃあユイちゃん、あの…『お客様のご意見』…貼り出されたの…私なんかと…気分悪かったでしょ…」

陽菜子はあの怪文書による風評被害をパートナーの唯へ詫びた。

 信憑性の低い情報なのだが信じている者は居るらしく、あれ以来職務上のやりとりでも陽菜子は周りの目が気になり葉山と話しづらくなっている。

「構へんよ、ヒナコなら妥当というか…位置的にも年齢的にもお似合いや思われたんやろ…」

唯は嘉島を見ながら『お似合い』を強調すると、彼はグラスに残った酒を一気にあおる。

「まァ…そうだろうね…順当にいけば…俺なんか疑われもしない…葉山くんあたりが………はァ…暑いな…ヒナちゃん、こっちおいで…」

 酔っ払った嘉島は部屋着のスウェットのファスナーを半分開ける。

 陽菜子を膝へ手招きするも彼女はさすがに断り、冷蔵庫へ水を取りに立った。

「なんや、見てたらこのまま脱いでおっ始めるんちゃうか?チーフ、酔いに任せてはダサいわ」

「…見せるわけないだろ、俺だってまともに見たことないんだよ!」

「もう、チーフ、呑み過ぎ…ほら、ヒナちゃんのお水が来ましたよ~」

 嘉島は陽菜子から水の入ったグラスを受け取るも、飲もうとはしない。

「…上司のこういう姿見ちゃうと仕事に支障が出るから、職場恋愛は隠さなきゃ都合が悪いのよねぇ」

「そうだねェ、笠置さんと付き合うくらいだから、葉山くんも相当なんでしょ?部下の性癖が分かっちゃうのも考えものだよ…」

酔いの回った嘉島は唯へ流し目で話を振る…結果、ここからはもっと下世話な話題になった。

「うちの葉山は優秀ですよ、うちが仕込んだんやから」

「聞きたくねェけど…なに?やっぱ若いと違う?」

「……」

「……」


 酔っ払い二人の小競り合いや低俗な話を無視して、

「…片付けようかな…」

と陽菜子は鍋を持ち上げる。

「自分のパートナーに夜の生活の話をバラされるってキツいわぁ…ところでヒナちゃん、チーフのどこが好きなの?デートはどこ行ってるの?」

美月はこれ幸いとばかりに食器を片付けながら、陽菜子と純粋な恋バナに花を咲かせた。
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