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9月・勇者は容赦ない
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しおりを挟むさて時は現在の駐車場の二人に戻る。
「あじだ、で、ざんがげつ、おわっぢゃうの、にー」
陽菜子はぽろぽろと涙を流して嗚咽混じりで訴える。
「わかった。とにかく立って、車で話そう」
「ゔー…」
陽菜子を車の助手席へ座らせ、嘉島はあの日と同じシチュエーションで再度話し合うことにした。
彼女に鼻を噛ませ、
「3ヶ月、逃げ回って悪かったよ。…最初から、適当に乗り切って断るつもりだったし、君も諦めると思ったから」
と切り出しふぅと息を吐きながら両腕を上げ、ヘッドレストの後ろで手を組む。
「…ずるいですね!」
「君が言うなよ、君も脅迫したろう。イーブンだよ……年長者への憧れを恋愛感情と勘違いしてると思ってたよ。だから3ヶ月何もせず、綺麗なままで帰してやらなきゃと思ってルールを作った。そうでなくても、君がもっと大人になった時に、この期間を黒歴史として後悔しないようにね。オジサン追いかけたなんて思い出したくないでしょ」
横目で睨む嘉島の話に不満そうな顔で聞いていた陽菜子がもういいとばかりに割って入り、
「…………もう、いいです。…3ヶ月、仮ですが彼女できて楽しかったです。仕事中もいつもよりキラキラして。メッセージはひと言返事しか来ないしすれ違いばかりでしたが。…デートも行けずでしたが…諦めます。無関心は辛かったです。明日も、会ってもすぐフラれてお終いですよね、1日早いですが、ちょうど良いので今終わらせて下さい」
と、自分から振られる準備に入った。
「…んー……そのつもりだったんだけどねェ」
手を下ろし左手でぽりぽりと頭を掻けば、覚悟を決めていた陽菜子は嘉島のその横顔を訝しげに覗いて凄む。
「…………あの、振ってもくれないんですか?それも逃げるんですか?どんだけずるいんですか。嫌いにさせて下さいよ……それとも、日和ってるんですか?………エサもやらずに3ヶ月も泳がせておいて、今更惜しくなってOKなんてやめて下さいよ。惨めですし、幻滅させないでください」
「……………口が達者だなァ…」
嘉島はふにゃりと脱力し、天を仰ぎ、そして深く長いため息を吐いた。
「…明日いよいよ君を振るつもりだったよ。俺とじゃ先が見えないからね」
「そんなこと」
「まぁ聞いてよ。この年の差でしょう。好きってだけじゃ君の人生に責任持てないよ。君がどんなに喰らいついても振るつもりだった。メッセージも…毎日送られてくる挨拶も、自己紹介も、…俺のどんな所が好きかっていうレポートみたいな長文も、忙しくても全部読んだよ。君が俺を慕ってくれてる気持ちはよく分かった。嬉しかったよ。それでも、無理だと思ったんだよ」
陽菜子は少し泣きそうになって口を噤んだ。
「大体、好きだ慕ってるだって、実際イメージできるか?俺と並んで歩いたり、俺に抱かれたりすること想像できるか?」
「!」
彼女が恥ずかしそうに目線を落としたので、嘉島は軽く咳払いをして続ける。
「最初の頃は、意識せずに普段と変わらない行動に努めた。休みの度に遠出してね。それからちょうど繁忙期も佳境に入ってきて、忙しさでお互い毎日疲れて、ね?」
「はい…」
「秋になるとゆとりが戻って、君の事を少し落ち着いて見れるようになった。仕事中の動きだったり、お客さんへの対応だったり、談笑する姿とか、飲み会でもね、君は裏表の無い良い子だよ。尚更、俺なんかと付き合う理由は無いと思ったね。嫌いとかじゃなくて、むしろ好きだけど、」
「好き?」
「聞きなさいって、好きだけど、もっと若い男と一緒になる方が自然だろ。俺じゃなくてもいい。さっき言ったように、3ヶ月乗り切って綺麗なままで放してやらなきゃ。」
座り直した嘉島は陽菜子の方へ向いた。
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