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9月・勇者は容赦ない
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しおりを挟む3階建ての最上階、休憩用の長机や管理職デスクが並ぶ事務所の奥に目的地『金庫室』はある。
室と言っても扉があるわけではなく、みっちり並べた高さある個人ロッカーを壁替わりに配置し、一坪程度の区画にしてあるだけだ。
その仕切りの中には大人ひとり入れそうな作り付けの金庫と紙幣硬貨計数機、作業机には常時書類が並ぶ。
金庫業務はその日の遅番のレジスタッフが行うことになっており、同じく遅番の管理職が監督する。
今夜は入社4年目の新庄陽菜子が金庫担当だ。
新庄は高卒の正社員で、高校生からアルバイトで働いていたため実務経験は合わせて6年、しっかり者で仕事覚えも早い。
規則通りにまとめた黒々としたセミロングの髪、歳より幼くみえる顔立ちと振る舞い、アラフィフ・グレーヘアーの嘉島にはその若さが眩しかった。
彼女は器量もいいので入社直後からモテて、過去の食事会で「付き合うなら10歳は年上が良い」と公言したためアラサー男性陣が色めき立ったものだ。
盗られまいと早々行動に出て玉砕する者もいれば、遊び友達として堅実に地盤固めをする者もいたらしい。
金庫担当は昼から出勤して売り場でレジや修理受付を行い、日没後から閉店後まで金庫室でお篭り事務作業である。
嘉島は、自分のせいではないがあまりに待たせてしまったので、コーヒーでも奢ってあげようかな、くらいは考えていた。
事務所前には自販機が2台、室内にはその場で豆から挽いてくれるコーヒーマシンも導入している。
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