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1月・勇者はあられもない
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しおりを挟む街のホテルへチェックインして夕飯は海鮮ビュッフェを堪能、嘉島は喜ぶ陽菜子を見ているだけで腹一杯になり、夜に備えて酒は呑まなかった。
「美味しかったですね」
「うん、日本海側もいいね」
「北陸とかも行ってみたいです」
「鰤とかか…いいね…また来よう」
二人は部屋に戻るも寝るにはまだ早い時間、大浴場もあるが部屋には風呂も付いている。
陽菜子は着替えや歯ブラシなどの風呂セットを鞄から出してベッドに置き、備え付けの浴衣を持って嘉島の判断を仰ぐ。
「…ホテルって…ヒナちゃん初めて?」
「え、男性と泊まるのは…初めてですよ…」
今夜の宿は市街地の観光ホテル、ツインルームなのでベッドはそれぞれ用意されていた。
「だろうね、俺もラブホ以外で女の子と泊まるのって初めてだなァ」
「はは…初めて同士…あ…」
ラブホテルさえ未経験の陽菜子は、嘉島がふと漏らした経験談を掘り下げるべきか少し考える。
そんなことは知らない嘉島は、ここから浴衣で大浴場まで向かうつもりで服を脱ぎ始めた。
「この歳になっても初めての事って結構あるね、そうだ、浴衣になる前に…下着見せてくれよ」
「は、い…これ、着替えるつもりで…あの…笑わないで下さいね…」
陽菜子が着替えの荷物の中から布を取り出し肩紐を摘んで男へ披露すると、浴衣を羽織った嘉島はしばし固まった後で
「えっっっろ…」
と頭を抱えしゃがみ込む。
「そうですか…?良かった♡」
「待てヒナちゃん、大浴場でそれ浴衣の下に着るつもりだったのか…?やめなさい、人に見られたら…戻ってきてここで着てくれ…」
新調したのは下着というよりランジェリー、ピンクの薄い生地で出来たベビードールであった。
「可愛いでしょう?」
「可愛いよ、でも下着の用をなさないだろ…」
「でもカテゴリは部屋着って」
「どこの世界の話だよ……おし、おーし分かった…」
嘉島は浴衣の帯を締めて薄布を取り上げベッドへ置き、
「来なさい、こっちの方がマシだ」
と抱き寄せた陽菜子のニットを捲り上げて肌へ唇を付ける。
「わ…あ♡え…えぇ?」
腹、ヘソの上、胸の下、脇腹、デコルテに脇、点々と嘉島はキスマークで領地を広げ、彼の頭が次の予定地へと動く度に陽菜子はそわそわと服の下を覗き込んだ。
「ふゥ……よし、お風呂行こうか」
「待って、健一さん…これじゃ…恥ずかしいです…」
白い肌に内出血が十数か所、不規則でまばらな水玉模様は虫刺されの痕にも見える。
「湯気で見えないよ…鍵1本持ってね、出てくる時間違うだろうから…せいぜい楽しみなさいよ、ヒナ」
「も…意地悪…」
「脱衣所であれ着られるよりマシだわ…本当は体に良くないらしいけどね、マーキングよ、ははは」
浴場のある階までエレベーターで乗り付けてそれぞれの湯殿へ、嘉島は渋い顔の陽菜子の尻をひょいと撫でてから暖簾の先の男湯へ消えて行った。
「(健一さん…旅行で気が大きくなってるんだな…どうしよ…タオルで隠しながら…はーー…)」
脱衣所で服を脱げば徐々にマークが露わになる、他に客は数人いるが当然個人の体をジロジロ見たりする者はいない。
「(案外…平気か…)」
陽菜子はホテルのフェイスタオルで前を隠して浴室へ入り、壁面のシャワーで髪と体を洗った。
見たことのないメーカーのシャンプーやボディーソープ、特にこだわりがあるわけではないが普段と違う香りを恋人は嫌がらないだろうか、そんなことを心配する。
「お姉ちゃん、ここどしたん?噛まれたん?」
「えっ⁉︎」
頭を泡に包まれた状態で振り返れば幼稚園くらいの少女、単純に彼女は陽菜子の赤い点々を心配して声を掛けてくれたのだろう。
「あ、大丈夫だよ、うん、」
「いっぱい噛まれたん?」
「こら、すみません、ほら行くよっ…」
母親に手を引かれ退散した子は最後まで不思議そうに陽菜子の方を気にしながら入浴していた。
幼い子に疑問を持たせた上に楽しい家族旅行に妙な思い出を植え付けてしまったのでは…陽菜子は居た堪れず頭を濯いですぐに脱衣所へ上がる。
濡れた肌に浴衣を羽織って最低限のスキンケアをして、頭も乾かさずにカラコロと下駄を鳴らして部屋へと戻った。
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