壮年賢者のひととき

茜琉ぴーたん

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1月・勇者はあられもない

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 走ること3分、最寄りのスーパーは嘉島の勤務地・北店の隣である。

 建物を見遣れば営業中の店舗内には天井のLEDが眩しく、反対に建物一階部分の駐車場はがらんとして薄暗かった。

 陽菜子は徐行中の助手席で靴を脱いで、コンソールボックスを跨いで後部座席へ移る。

「おお…車中泊できますね…」

「寝転がって、窓から星眺めるの好きなんだよ。夏はドアごと開けてね」

「楽しそうですね、」

うつ伏せに横たわり両手で頬杖をついて、陽菜子はシートの感触を全身で確かめた。

「そういやここ、店自体が新しいじゃない?この前ね、多目的トイレでセックスした奴がいたらしくて…見廻り強化してるんだよ」

「えッ⁉︎そんな…お客さんってことですか?」

「おそらく……ん?スタッフの線は想定外だったな、それも無くはないか…?」

「うへぇ…いけませんね…みんなのトイレですから…」

 嘉島はコロコロと転がる陽菜子をミラー越しにチラと確認して、北店の駐車場に車を着ける。

「ヒナちゃん、AVとか観たり…は無いか。車の中でスるっていうジャンルもあるんだよ」

「へ、ぇ…え?」

「いや、さすがにシない、シないけど、なんかそこに居る感じがエロくって良いなと思ってね」

ベッドの如くフラットにした席の上に、起き上がりペタンと正座を崩した陽菜子は檻の中の見世物の様でエロティックだった。

「横の…窓のカーテン、全部閉めちゃってよ」

 純正のカーテン、きちんとレールが付いてスナップボタンで捲れないように固定もできる。

「は、い…」

「ここ、監視カメラはダミーだから。ヒナちゃん、上…脱いでみようか」

「は、へ…え?あ、ココで、ですか?」

 ここじゃ無ければ良いのか、脱ぐこと自体に抵抗はさほど無さそうだ。

 嘉島はしめしめと指示を出すためにエンジンを切った。

「そう。待って…室内灯もぼちぼち消えるよ…………ん、これで、フロントガラスに日除けを敷く……はい、外からは見えない。さ、第一ボタンから外そう……得意だろ?」

「もう、それは忘れて……」

 それは昨年の夏、交際試用期間を設けるため陽菜子が嘉島を脅すのに利用した手である。

「あー、いいね。ストリップ…暗いな、ここだけ点けよう」

嘉島は運転席のバイザーを返し、ミラーのスライド式の蓋を開けばLEDがぼんやりと二人を照らした。

「……」

 ボタンをひとつ、ふたつ外せば鎖骨の真ん中には見覚えのあるペンダント、嘉島からのクリスマスプレゼントのネックレスがぶら下がってキラと光った。

「着けてくれたんだ、お泊りだから?」

「はい…こんな所で見せちゃうのは想定外ですよ」

「ヒナちゃーん、いいね、思い切って胸元開いてみようか、ボタン外して、そう♡」

オヤジ臭いことは分かっている、嘉島はプレイとしてAV撮影の雰囲気を醸そうと面白がっているのだ。

 陽菜子もこの悪ノリに付き合い、開襟したワイシャツを大きく開き、ブラジャーに包まれたCカップの胸を嘉島へ向けて見せてやった。

「ふふ、可愛い…」

ミラーの蓋をパチンと閉めれば車内は真っ暗、セキュリティー装置の赤い光だけがチカチカと点滅して僅かに陽菜子の白い胸とペンダントに反射する。

「もう…いいですか?寒いし…」

「あァごめん…ちなみに…ヒナちゃん、旅行の日って…体調的にはどう?あと今夜は?」

「大丈夫な日…ですよ、今日は…すみません、安全に配慮したいので…ダメです」

 陽菜子が少しでも不安な日はしない…嘉島の宣言通りにセックスの可否は彼女に全権を委ねられている。

 こんな日はただくっついて眠ったりするのだが、今夜は少し違うようだ。

「あァわかった、ハグして寝ようね…ん、ヒナちゃん。下着、そのまま取れるか?上」

「は…?」

「裸ワイシャツ、カーディガンで隠れるだろ?それで買い物しよう」

嘉島は室内灯を点けて財布を探す。

 ミラー越しの男は無邪気な提案を絶対的なものとして推し、撤回するつもりが無いので小首を傾げて「まだ?」とばかりに目で訴えかけた。
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