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2月・勇者は大切ない
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しおりを挟む「ヒナちゃん……俺、西店の副店長になっちゃったよ」
2月頭、嘉島は陽菜子を自宅に招き、ダイニングで対面して座り話を切り出した。
「はい、おめでとうございます」
「めでたくねぇよォ…出世とか要らない…ヒナちゃんと本店で働いてたいんだよォ…」
今現在嘉島は北店へトレードで期間限定転勤をしていて、法人事業部の清里所長が産休から復帰し次第本店へ戻れる約束だった…のだが。
悲しい予測通り、正式に副店長へ持ち上がりしかも西店へ転勤まですることになってしまった。
彼の年齢からすれば遅いくらいの就任、下の者の為にもそれが妥当だと本社が判断したのだから従うほかないのだ。
「あー…」
おめでたいリアクションは間違いだったのか、いい大人の泣き言を陽菜子は「はいはい」と聞いて、寂しがるテンションに切り替えていこうと思うも乗り切れない。
「転勤無しのエリア社員だって、この近辺で巡店していくわけですから、いずれ起こる話ですよ…私もいずれ転勤するかもしれませんし」
「いや、まァそうなんだけど…」
どうもこの子はサラッとしている、嘉島はいつの間にか精神年齢がひっくり返った様にさえ感じていた。
「お話ってその事だけですか?ご飯準備します?」
「待って…あの…うん、しっかり話すから聴いて欲しい」
「はい」
プライベートにしては真剣な表情の嘉島が彼女の胸を打った。
立ち上がりかけていた陽菜子は居住まいを直す。
「…まず来週から新店の応援に出て…西店の副店長がそこの店長に昇格する。で、空いた西店の副店長枠に…俺が入る事になった。もちろんここから出勤できる範囲内だけど…ヒナちゃんと職場も離れちゃうし物理的に触れ合う時間が減っちゃう……ヒナちゃん、」
「はい」
「もう…嫌なんだよ、働いて、独りでここに帰って…ヒナちゃん想いながらメシ食ったりマスかいたりすんの…」
「ます?」
陽菜子は耳慣れない言葉にキョトンと素の表情に戻ってしまう。
「いや、間違えた。んッ……」
嘉島は慌てて咳払いをして畏まり、
「ヒナちゃん、その……一緒に、暮らしたい。ここは近隣店へのアクセスも良いし、部屋も充分にある。本店にも通いやすいし…いや、その……つまり、……結婚しないか」
と言い直せば、
「はい。お願いします」
とコンマ0秒で快諾の返事が来た。
「速いな!ちゃんと考えなさいよ、人生が」
「健一さんとお付き合いを始めた時点で、ライフプランは出来上がってます。是非にお願いします。子供も作りたいです…2人か3人は欲しいです。…引っ越しの準備をして…私は寝室に少し私物スペースを頂ければ大丈夫ですから」
しっかりしているとは思っていたがここまでとは、嘉島は熱弁する陽菜子の手を握り、少し照れた様子でふにふにと揉む。
「わかった、わかったよ…具体的に決めちゃった方が良さそうだね、ん、待ってね」
嘉島はカレンダーとスケジュール帳を持ってきてダイニングテーブルに広げ、入籍日や式の希望などを話し合った。
とりあえずは両家に挨拶に行かねばならない、式をするならそれなりの規模で上司も呼ばねばならない。
やる事は山積みだがそれが慶びに感じてもらえているのが嬉しい。
「呼び方は今まで通りでいい?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ヒナちゃん、俺さ…もっとくだけた呼び方が良いな」
敬語になるのは仕方がないが呼び名くらいはもっとフランクになっても良いだろう、嘉島は常々考えていたことをようやく口に出した。
「んー…『健さん』とか?」
「いいね、うん…ヒナちゃん」
「健さん♡」
「あー…堪んね…ヒナちゃん、お風呂入ろう、抱く、抱きたい」
むくむくと盛り上がる多幸感と性欲、嘉島はネクタイを緩めながら陽菜子の手を取り風呂場へと向かう。
「家族計画もしっかりしなきゃですね」
「それは後でいいから、ちゃんと避妊するから!とりあえず、プロポーズ成功を祝ってシよう、おいで!」
「パジャマ…」
「要らない!」
若々しくはしゃいだ嘉島は妻予定の陽菜子を大切に抱き、しかし自分の物だと言わんばかりに荒々しさも見せるのだった。
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