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12月・勇者は頑是ない
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しおりを挟むクリスマスの夜。
「おつかれさま、乾杯」
「もう、メリークリスマス、ですよ」
普段の呑み会の要領で挨拶をしてしまった嘉島を嗜め、陽菜子がグラスを合わせる。
「早速だけど…これ、プレゼント。……気に入ってくれれば嬉しい」
嘉島はおずおずとラッピングされた細長い箱を取り出して渡し、照れ隠しにグラスの酒を半分空けた。
「ありがとうございます…開けてもいいですか?」
「もちろん」
リボンを引いて蝶番式の蓋をパカッと開ければ、三日月と星をモチーフにしたペンダントが光を集めてキラリと光った。
「わ…可愛い……あれ…?」
陽菜子はなんだか見覚えのあるデザインに既視感を覚え、ここ最近のメディアの記憶を辿る。
確か同僚とそのような話をしたような、アクセサリーの好みの話をしたような。
「…葉山に…リサーチかけさせた…俺のセンスじゃ…自信無くて」
「あ…それかぁ……おかしいと思ったんです、葉山くんがわざわざ私に聞くなんて…ふふっ…健一さん、かわいい♡」
「男にかわいいはやめなさいよ…ん、着けて見せてよ…」
彼は口の端から垂れた酒を手で拭い、酔いのせいではない赤面を隠し目線を外した。
「はーい…」
「………」
「どう…わぁ…可愛いです…」
「揺れてるな」
ゆりかごの様に横になった月の上に線のパーツで渡された小さな星が、チラチラと光を集めながら揺れては放つ。
デイリーというよりはペンダントトップがメインの…見せなければもったいないデザインである。
「本当…普段使いというよりはお洒落用でしょうか…」
「そうか、仕事中は気になるか。じゃあ普段のお出掛けにでも使いなさいよ」
お守り代わりに毎日持たせたかった…嘉島のその想いは届かなかったが、愛おしそうにそれを眺める彼女を見れて嬉しかった。
「わ、私も…プレゼントをご用意したんです、これ…お休みの日に使って下さい…」
陽菜子は両手に収まる大きさの箱を鞄から出し、
「リボンとか掛けてないんですけど…どうぞ」
と渡す。
それはペアウォッチが有名なブランドのロゴが入った箱で、中に何が入っているかは分かり切っているが嘉島はワクワクと胸が高鳴る。
「わ、…………星だ、………かわいいね」
文字盤に天球儀をあしらったファッションウォッチ、一つは黒で一回り小さい方は白。
「俺は…黒でいいのかな?ありがとう…ペアだ…」
「いや、本当…健一さんの時計に比べると恥ずかしい値段なんですけど…、あの、ほんと…」
嘉島が仕事で着けているのは高級腕時計の代名詞ブランド、四十路を記念して自分への褒美で購入した重厚感ある代物であった。
「比べる物じゃないよ、ヒナちゃん…嬉しいわ…うん、仕事で着けようかな」
シリコンラバーのベルトを左の手首に巻いて、天井の照明に腕をかざすと嘉島の腕の雰囲気が変わる。
「いけません、私はともかく、男性は時計とか細かいところ見られますから…プライベートで、うん…」
「ステータスね、確かにその為に買ったけど…ヒナちゃんとのお揃いの方が価値が高いわァ…ふは」
陽菜子も自身の腕にはめ、嘉島の腕に添えてスマートフォンのカメラを起動した。
「折角なので…撮っておきましょう、…………ん、バッチリ、ふふっ、嬉しい。私は普段の仕事でも着けるつもりです」
「うん、可愛いよ。おいで、ヒナちゃん」
ソファーに掛け直した嘉島は、陽菜子をその腕の中に収める。
「んー…女の子と過ごすクリスマスとか…いつ振りかなァ…覚えてねェな、んー…」
「くすぐったい…いつ振りですか?思い出して下さい」
陽菜子は彼の女性遍歴に意外にも興味津々で、首元にくんくんと鼻を潜らせる嘉島を制して目を爛々と輝かせた。
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