壮年賢者のひととき

茜琉ぴーたん

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12月・勇者は頑是ない

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 12月。

 嘉島かしまはその日も、自宅から車で2分の北店で期間限定の副店長職に奮闘していた。

 本来の店次長(副責任者)は今本店で法人の所長代理、そして嘉島が担当していたレジフロア長を兼任してくれている。


「だるいよォ…はァ…」

 売り場からバックヤードへ下がり、歩きながらついつい弱音を口に出してしまう。

 嘉島は元々、今以上の出世で多忙と心労に悩まされるのが嫌で、【全国転勤有り正社員】から【転居無しの地域社員】に変更しているのだ。
 
 昇格してちょっと給与が増えるくらい何の魅力も無く、むしろ恋人ができてからはなおさら…ゆったりと陽菜子ひなこの側で働いていたかった。

 毎週毎週Web会議では偉い人が売り上げ不振店の管理職をき下ろす。

 予定調和の謝罪も聞いていて気分が悪い。

 正直胃が痛いし、向こうの質問にうまく答えられなかったらそれこそ公開処刑も同然の辱めを受ける事になる。

 これまで本店でもそれは行われていたが、チーフフロア長は出席要請が無いので副店長不在時の代理でしか参加したことがなかった。

「あー、嫌だ嫌だ…」

 年末セールを控えた繁忙期、嘉島はひっそりと煙をくゆらせながら喫煙所でスマートフォンに手を掛けた。

『さみしい。いそがしい。あいたい。』





 同じ時間、本店の事務所の休憩スペースで、嘉島からのメッセージを受け取った陽菜子はふふと笑った。

「…どうしたんですか?」

椅子をひとつ挟んで、隣で昼食をとっていた同僚・葉山はやまがその声に反応する。

「ん、これ見て…」

陽菜子は立てた人差し指で唇を押さえながら、葉山にメッセージアプリの画面を見せてやった。

「うわ…なんか随分とお疲れっぽいですね…大丈夫ですか」

「ね、まだ一週間経ってないのにね…」

「なんて返すんですか?」

「んー、秘密♡ふふ」

陽菜子はスマートフォンのカレンダーを確認して返信する。


『明日は遅番なので、今夜伺います♡』

「よっっっしゃぁぁあ!」

喫煙所から事務所に戻っていた嘉島は陽菜子からの返信に柄にもなくガッツポーズを決め、周囲のスタッフを困惑させたのだった。
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