壮年賢者のひととき

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
45 / 80
11月・勇者はしどけない

39.5

しおりを挟む

 11月、某事件後。


 嘉島かしまは報告書を仕上げ、定時を回った葉山はやま青年に個人的な相談を持ち掛けた。

「…ところで、これと別件で話があるから、タイムカード押してから戻って来てよ」

「?いいですよ」


 葉山は言われた通り退勤を押してから再びパソコン教室へと戻った。

「葉山、関係無い話なんだけどさァ、取引をしないか?」

 はて、何か自分は弱みでも握られただろうか。

 こういった話の切り出し方は脅しか脅迫…葉山は自分の思考回路で上司の行動を分析する。

「なんです…スワッピングとか絶対イヤですよ」

「そんなん俺だって御免だよ…気持ち悪いこと言うなよ…違う、新庄しんじょうさんに聞いてほしいことがあるんだよ」

スワッピング…それは互いのパートナーを交換して致すこと、葉山は提案こそしてみたものの、当然冗談であった。

「うちのユイさんじゃ勃ちませんか?分かってないなぁ」

そしてパートナーのゆいを「気持ち悪い」呼ばわりされたことに苛立ちを覚える。

「分かんねェよ…交換するっていう、発想が気持ち悪いって言ってんだよ…違う、だから、」

「何ですか、聞いてほしい事って」

話はしっかり聞いていた葉山は本題へと軌道を戻して、ケロっと上司の顔を見直した。

「来月…クリスマスだろ、新庄さんに…プレゼントあげたいんだけどな、正直俺のセンスじゃたぶん合わないんだよ。アクセサリーで考えてるんだけどな…いくつかの選択肢の中から、好みのデザインとか傾向…聞いてみてくれない?」

「はぁ。良いですけど…僕の利は?」

「お前にも何か買ってやるよ、クリスマスプレゼント」

嘉島は財力にモノを言わせて葉山の懐柔かいじゅうを図る。

「はぁ…欲しいものとか特に無いですけど…考えておきます。アクセサリーって…新庄さん、ピアス穴はありますか?」

「無い。イヤリングも着けてるの見たことない」

「休みの日だけなら指輪もアリですけど…ペアでなければエンゲージリングくらいしかプレゼントにはしませんよねぇ……となれば、ネックレスですかね、難しいなぁ…」

「俺に選ばせると星とか月とかになっちゃうよ。女性のセンスは分かんねェんだわ…まぁ、クリスマスまでに…頼むわ」

「うーむ…」





 数日後、休憩中の事務所にて。


「新庄さん、これ…見て下さいよ」

葉山は休憩のタイミングが合った陽菜子ひなこの隣へ腰掛け、スマートフォンの画面を見せる。

「彼女へのクリスマスプレゼントなんですけど、女の人ってどんなネックレスがお好みでしょうかね?参考までに」

作戦は単純、葉山も「恋人へのプレゼントの相談」として陽菜子へ話を持って来たフリをしたのだ。

「よく言われるのは一粒のやつ…クリスタルのブランドのとか…これ、可愛いね」

「へぇ……ちなみに、ここら辺で新庄さんが自分の物を選ぶとしたら…どれにしますか?」

陽菜子は一瞬キョトンとしたが、『ネックレス デザイン』で検索した結果のページをスクロールして一通り見て、「うーん」と唸った。

 そして『ネックレス 星』と検索バーに入力して再検索、

「これ…こういうのが可愛いと思う」

と一つを指して目尻を下げる。

 葉山はそれを確認してコクコクと頷いた。

「大変参考になります…ありがとうございました…あ、この前は急に電話してすみませんでした」

「いいのいいの………あー……仲良く、ね…」

 それは数日前のセックス中継電話、陽菜子はスマートフォンから漏れる唯の切な喘ぎ声に衝撃を受けたのだ。

「じゃあね」

「はい、ありがとうございました」

陽菜子はロッカールームへ消え、葉山は昼食を摂りながら先程の画面のスクリーンショットを撮って嘉島へ転送してやった。

「(悟られちゃったかな…?それとも、好みが似てるのか…合わせにいったのかな…)」


 葉山は嘉島と陽菜子の仲を少し羨んで、『クリスマス 彼女』のワードで検索をし直すのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

処理中です...