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11月・勇者はしどけない
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しおりを挟むそして数分後、女性陣が連れ立って戻ってきた。
「おぉ、広い!オシャレやなぁ~」
「本当…大人の部屋~」
口々に部屋の感想を述べるコンビを制し、嘉島が冷蔵庫から食材を出して並べていく。
「さ、鍋の準備するよ…誰が切る?」
「女の仕事ちゃうわ、家主やろ」
「あたしやりますよ」
「刈田さん、そこ包丁出てるから。笠置さん…はァ、いいけどさ、手伝うくらいしてよ…」
「私も、やりますよ」
元々するつもりであった陽菜子も名乗り出れば嘉島はうんと頷いて、
「ごめん、お願い。アイツ見張っとくから…ちょっと、引き出しを勝手に…こら!スリッパを履きなさい…」
タイツで動き回る唯を追いかけて行った。
「ふふふ」
「ヒナちゃん、ごめんね?お邪魔しちゃって。彼女の前でチーフがどんな顔するか見てみたかったの♡」
白菜をザクザクと切りながら美月は陽菜子に謝る。
「いえいえ、みんなで囲む方が楽しいですし。チーフ…ユイちゃんと居る時は感情を表に出してるから、それを見るのも私楽しくて」
陽菜子は「そして羨ましいです」の言葉は発さずに呑み込み、しめじの石付きを美月に切り落としてもらった。
「確かにね」
「……んー…聞いちゃおうかなぁ…」
廊下の向こうからパタパタと小競り合いの声が聞こえると突然美月はそう呟き、キッチンに並んで立つ陽菜子にすすすと近づいて
「…ヒナちゃん、チーフともうエッチした?」
と尋ねた。
「⁉︎」
しめじをもいでいた陽菜子は思わぬ質問に目を剥くが、先輩の茶化すわけでない眼差しについ素直に答えてしまう。
「ま、まだです……その、私、チーフが初めての彼氏なので…ゆっくり…」
「そうよね、うん、チーフは本当に紳士ね。………あたしもね、今彼氏が居るんだけど、………タイミングはかってるところなの。……内緒よ?あたし、も、シたこと無い…の…」
薄化粧の頬を紅く染める先輩は美しく恥じらい、陽菜子はほうと息を飲むと同時に内容が頭に入り、感想が口をついて出る。
「わぉ、意外…です…」
「歳を重ねると、臆病になっちゃう…ぼちぼち結婚も意識するじゃない?男性も困るよわねー…ごめんね、こんな話」
「いえ、ご健闘を…今度女子会で、そのあたり話しましょう」
土鍋を火にかけ、具材をどさどさ入れていく。
「………」
「歳を重ねると臆病になる」、嘉島が陽菜子の告白を受け入れた時も、同じような事を言っていた。
内容も年齢も違えど、似たような感覚を持つのか、と陽菜子はほうと噛み締める。
一方、寝室では唯の無双状態が続いていた。
「チーフ、ゴムはどこ隠してますの?」
「無いよ、黙りなさい、リビングに戻って、」
嘉島は家探しを止めようとジリジリ間を詰めるものの、触れるわけにいかないので口頭注意で聞かせる。
「はぁ⁉︎無い?着けなあきませんよ、紳士の嗜み」
「ここには、無い!んだよ!もう、うちの子に近づいて欲しくないなァ、お前は!」
「あー、薬箱に入れるタイプ?台所やな」
唯は家主の横をすり抜け、キッチンへ向かう。
コイツが男なら羽交い締めにしてでも止められるのに、と嘉島は歯をギリギリと鳴らして後を追った。
「おうヒナコ、薬入れてんのはどこや?」
「?ここらへん…?」
陽菜子は前に湿布を出しているのを見たことがあったので敵に場所を教えてしまう。
追いついた嘉島はサジを投げ、陽菜子を隔離することにした。
「ヒナちゃん、こっちにおいで。悪い大人を懲らしめるから。こっちに座ってなさい」
「はーい?」
唯は救急箱を手に取り開けて覗き込み、美月もつい好奇心でつられて…
「…ほぅ…」
「ユイちゃんなぁに?……やん♡」
「なんですかー?」
蓋を開けて覗き込んだ姦し2人はそれぞれにリアクションし、気になる陽菜子も背伸びをしだが嘉島に制された。
「君は見なくていい、聞かなくていいから。はい、ごはん!ごはんにしよう」
嘉島は救急箱を取り上げて、唯の頭に我慢の限界を超えた拳骨を落とした。
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