壮年賢者のひととき

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
29 / 80
11月・勇者はしどけない

25

しおりを挟む

「はい、あ、業務に関しては事実です、売り場担当が持ってきた伝票を、配送カウンターで私が会計処理しました。当然、当て付けですとか、そんなことはありません!」

「ん、OK。次に来られたら、俺が対応するから。何かあったら必ず言いなさいね…あと、」

 簡単にメモを取ったら嘉島は少し声を落とし、

「新庄さん、彼氏いるの?」

と、わざと陽菜子を挑発した。


「……せ、せくはら!」

「いいじゃない、教えてよ…新庄さん♡…それとも、やっぱり葉山と仲良くしてたの?」

「………ひど」

陽菜子の眉が下がり、目がじんわりと潤む。

「うわァ、ごめん、ごめんって、」


「あ、チーフがヒナコ泣かしとるー!!」

からかい過ぎたと慌てる嘉島の向こう、事務所から降りてきた唯が目を剥き叫んだ。


 唯はダッシュで二人へ駆け寄り、

「あぁ?なにうちのヒナコ泣かしてくれとんねん、おぉ?惚れた女の一人くらい守ったらんかい、コルァ、」

と嘉島を下から覗き込んでやからの如く絡み出す。

「こわい、こわい、ゴメンナサイ。あとうちの…」

「ヒナコ、気にしたらアカンぞ、葉山の方も聞き取りしとくしな、どうせガセやろうけど」

荒ぶる彼女はだいぶん眉間にシワを寄せて、おそらく葉山かマコを思い浮かべているのだろう、苦々しい表情で歯をギリギリと鳴らした。

 ちなみにだが、ハロウィン前に唯には嘉島たちの関係はバレている。

「大丈夫だから、ユイちゃん。……チーフ、時間なのでこのまま休憩入ります」

「はい、いってらっしゃい…」


 陽菜子はゆっくりと事務所へ向かって歩き出し、彼女の背中を見送りながら嘉島は少し小声になる。

「…笠置さん、どんな感じだったか覚えてる?そのお客さん」

「いや、うちらフルで対応中で…見てへんのですよ。……うちもたまに連絡先渡されたりしますけど、たまにぶっ飛んだ人も居てますね、こらぁヒナちゃんが心配ですねぇ?」

唯は丁寧語の端々に京都訛りを散りばめ、ニヤニヤと渋い顔の嘉島を揶揄からかった。


「…仕事中は『新庄さん』だよ。……そっちも心配だろ?元カノって………ちなみに葉山くんの事は呼び捨て?」

「フン…うちは昔から『りゅうちゃん』…………あ」

仕事モードの問いかけに素直に答え、唯は嘉島のカマかけに見事に引っかかってしまう。

 実は彼女たちも隠れた社内カップルのひと組であった。

「ふふっ、ひっかかったァ!…ふん、ハロウィン前から、怪しいと踏んでたんだ。葉山くんがなんか俺に当たりが強い気がしてたんだァ…きちんとしつけしときなさいよ、ふはっ……『龍ちゃん』ね…いいじゃない。お似合いだよ、はは、」

「むぅ…」

「職場恋愛は内密が暗黙のルールだもんなァ、お互い気を付けていこうよ、いいね、」

 お互いの秘密はこれで釣り合った。

 嘉島は不敵に笑んで、すぐに仕事モードの表情に還る。

「…へぃ」

「よし、戻ろう」


 廊下のだいぶ先、陽菜子がバックヤードの端から階段へ入ったのを見届けて、嘉島と唯も売り場へと歩き出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

デキナイ私たちの秘密な関係

美並ナナ
恋愛
可愛い容姿と大きな胸ゆえに 近寄ってくる男性は多いものの、 あるトラウマから恋愛をするのが億劫で 彼氏を作りたくない志穂。 一方で、恋愛への憧れはあり、 仲の良い同期カップルを見るたびに 「私もイチャイチャしたい……!」 という欲求を募らせる日々。 そんなある日、ひょんなことから 志穂はイケメン上司・速水課長の ヒミツを知ってしまう。 それをキッカケに2人は イチャイチャするだけの関係になってーー⁉︎ ※性描写がありますので苦手な方はご注意ください。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※この作品はエブリスタ様にも掲載しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...