壮年賢者のひととき

茜琉ぴーたん

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10月・おまけ

男のお宝

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 10月下旬、とある夜。

 嘉島かしまはこの日、朝から陽菜子ひなこを部屋に招いていた。

 といっても何をするわけでもなく、並んでテレビを観たり、ご飯を食べたりとただただカップルらしい事をする為である。

 昼は時間と手間をかけて寿司パーティーをしたし、午睡を少しとって近くの河原を散歩、夜は軽食にして映画でも観ようという話になっている。


健一けんいちさん、ここに置きますね」

「ん、いいよ。後で収めておく」

近所のホームセンターで蓋付きスツールを買い、その中に陽菜子の着替えを入れてクローゼットに入れる。

 言わばお泊まり用の私物セットである。

 これからのお泊まりに備えての準備、陽菜子はこの家に自分の陣地が出来たことを喜んでいた。

「嬉しいです。ふふっ」

「そう…」


 夕飯は冷凍パスタとスティックサラダ、リビングのテレビに動画チャンネルを繋げて視聴する予定なのだが、照明を落としてもそれなら食べやすいだろう。

「映画…何にしようかなァ?洋画?邦画?」

「健一さんがお好きな物で…飽きずに楽しめるものとかありませんか?」

「あァ…だったらブルーレイにしようかな…探してみるわ」

 嘉島は書斎として使っている部屋へ向かい本棚を確認、お目あてのディスクの背表紙を探すも見当たらない。

「んー…?最後に観たのいつだっけ……あ、あそこか?」

 デスクの引き出しの一番下、ファイルタイプのディスクケースの隣に探し物は並んでいた。

「あ、あった…なんでこんなとこに…」

「ありましたぁ?」

「ぅわッ…」

 しゃがみ込んだ嘉島の頭上から陽菜子が影を落とし、引き出しの中を覗いて尋ねる。

「それ…なんですか?男の人のお宝ってやつですか?」

「違……わない。そう、男のお宝だよ…はい、あっちに戻ろう、ごめん、ヒナちゃん…やめて…」

 陽菜子は強く止められないのを良いことに、嘉島の腕をすり抜けて引き出しの中の厚さ3センチ程のディスクケースを拾って開いた。

「うわぁ…何ですコレ…ちょっと読んでみて下さいよ」

「読めない。俺には分からない。あー、文字が小さくて読めないっ」

「AVコレクションですね…すごーい」


 それは嘉島が正当な権利を得てから今までの約30年で集めたお宝、アダルトビデオの集大成である。

 VHSから様々な規格を渡り歩いた嘉島の軌跡、CDやパソコン用ゲームソフトもそこには含まれていた。

「これ全部…?チーフ…えっち♡」

「なんで役職で呼ぶの…やめてェ…」

「どれが一番のお気に入りですか?最近も観てるんですか?」

陽菜子は矢継ぎ早に恋人を羞恥死させにかかる。

「一番とかは無い…最近はネットの配信で買っちゃう…もう収めなさい」

「チーフの歴史ですね…棺桶に一緒に入れるべきでしょうか」

「要らないわ。俺が死んだら真っ先に棄ててくれよ」

嘉島は開き直り、陽菜子の手からファイルを奪ってパラパラと捲る。

「これ…この女優さんは好きだった。エクボが可愛いんだ。こっちはだいぶ前だ…この頃は年上が好きだったから…ふん…照れるなら手を出すなよ」

「すみません…『男み』が強かったので…キュンとしちゃいました」

真っ赤な顔の陽菜子は嘉島を見つめ、内容はともあれかつて愛した女達を愛でる男の目に胸をときめかせた。

「健一さん、キスしましょう?なんだかやきもちです」

「ん…そう?嬉しいね。おいで、ヒナちゃん」


 嘉島はファイルを引き出しへ直し、陽菜子の手を引いてリビングでその唇を頂くのだった。
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